・湊遥が一年生 「っ、ふ………っ」 隣から漏れる声に気づいた湊がくすりと笑みをこぼし、横目で様子を窺う。すると目が合い、手で口を押さえた遥はきつく湊を睨んだ。しかしその瞳は情欲に濡れ、薄く涙の膜が張っている。湊はにこりと笑いかけ、再びプリントに目を落とした。 それは午後の授業がもうすぐ始まろうかという昼休みのこと。 次の日本国憲法は遥にとって憂鬱極まりないものだった。教員資格を得るためには否が応でも修得しなければならない単位であり、唯一湊と共に受ける授業でもある。 授業内容と教員の説明が退屈なこともあり、ほとんどの生徒が睡眠や自学で時間を潰すことが多い。湊も例に漏れず、甘い言葉で筆談したり太腿に触れてきたりと、遥に様々な悪戯を仕掛けては楽しんでいた。そのたびに注意はしてみるが、はっきり嫌だとは言えないからか湊も余計面白がってしまう。今日もそうなるのだろうかと、嫌なような嫌でないような気持ちを持て余しながら遥は湊の後をついていった。 「? 何だ」 二号館の自動ドアをくぐるなり、湊は遥の手首を掴んで廊下から逸れていく。教室へ行くには、入ってすぐの階段を上らなければならないのに。 「ちょっと来て。すぐだから」 それ以上有無を言わせないような強めの口調で促され、遥は訝しみながらも足を進める。湊が入った場所は男子トイレだった。 「…別に用はない。俺まで来させるな」 人気のないトイレを見回して遥が呟く。湊は聞こえないふりをして遥を個室に押し込み、自分も入って後ろ手に鍵をかけた。 「っ……何のつもりで…」 「そこに手ついて、そっち向いて。あと下脱いで」 うろたえる遥を無視して、湊は洋式トイレの壁に備えられた低い棚を指差す。淡々とした声に危険を察知しつつも、冗談じゃないとばかりに遥はかぶりを振った。 「人の話聞け! 何でそんなこと……」 「遥が悪い」 少し寂しそうな声の後、遥を壁に押し付けるようにして強引に唇を奪う。苦しさにもがく両手も壁に縫い付け、無理やり唇をこじ開けた。 「んうぅ……っ」 滑り込んだ舌が荒々しく口内を探り、遥の舌を引きずり出して絡める。こんな噛みつくようなキスなんて、普段はほとんどしてこない。いや、その前に大学内で事に及ぶこともない。静かなトイレに、くちゅりと唾液が絡まる音が響いた。 「ん、ふ……ぁ、っ」 湊の手が壁から離れ、押さえられていた遥の両手がずるずると落ちる。口を離して舌だけを絡め合わせていると、カチャカチャとベルトを外されたのがわかった。 「ちょっ、何して……んむぅ」 反論をまた塞いで、湊は遥の下衣を乱していく。ちゅ、と軽く舌を吸われた遥が体を震わせた。 (あし、が……っ) 湊の片手が腰を抱いていなかったら、がくりと膝が挫けてしまうだろう。何もかもを奪い去るようなキスに、頭の中が靄がかってきた。 「遥が悪いんだ。俺の友達にまであんな顔するから」 「ひっ……やぁっ、やめ…っ」 ようやく唇が離された頃、湊は拗ねた口調で囁く。同時に、腰を撫でた手が少しずつ下がり、狭間の奥をぐっと指で押された。 「何であんなかわいい顔すんの? 恥ずかしそうだし上目遣いだし、あいつが勘違いしたらどうすんだよ」 「そ、なのあるわけない……だろ、っ」 湊が言っているのは、先程暇つぶしのコンビニで会った知り合いのことだろう。湊と同じ学部だという男は遥よりずっと背が高く、そのせいで湊には上目遣いと判断されたのだろう。恥ずかしそうに見えたのはもともと遥が人見知りで、知らない人間に会うと戸惑ってしまうからだ。別にその男へ何かしらの思いが芽生えたわけではないが、湊は気に入らなかったようだ。 はは、と湊が自嘲的に笑う。 「言いがかりだって? 知ってるよそんなの。でも俺は嫌だったんだから、たまには俺の我が侭も聞いてくれなきゃ」 「ひぁ……っ」 唾液で濡れた指がつぷりと内部に侵入し、遥は思わず目をつむる。そのままぐるりと中をかき回され、熱に慣れた内壁がぐずぐずにとろけていく。深いキスで熱を持った体にとっては待望の刺激だった。 しかし軽くほぐしただけであっさり指は抜かれ、代わりに押し当てられたのは冷たく固い物体だ。つるりと覚えのある感触に遥は目を見開いた。 「や、やだっ……うぅっ」 確かな温度を持つ人間の一部ではない。性感を高めるために作られた機械が内部へ押し入り、ぐぐっと奥へ沈み込む。遥が何か言う前にさっと着衣を直し、湊は一転して明るい声を放った。 「じゃ、教室行こっか。授業遅れるし」 「な……っ、こ、こんな状態で行けるわけなっ……あぁっ」 ポケットの中でこっそりと操作されると、中の物体がぐりぐりと内壁を擦り上げる。遥はたまらず湊にしがみついたが、淫靡な雰囲気にそぐわない甘く優しい囁きが耳に落とされた。 「かわいいなぁ。大丈夫、遥がいい子にしてればバレないからさ。ほんの九十分くらい、俺のことだけ考えてて」 耳にちゅっと口づけてから、湊は様子を窺いつつ個室のドアを開けた。 (くそ……こいつ、っ) 抑揚のない教師の声だけが教室内に響く中、遥は隣の遠隔操作で緩い刺激を与えられていた。時折、卵形の天辺で弱い場所を抉られるとぶるりと腰が揺れる。振動も三段階に分かれており、一番弱いものを常に、強いものを瞬間的に切り替えられている。隣に座る湊は素知らぬ顔でプリントを眺め、操作する左手だけをポケットにつっこんでいた。 (んんっ……!) 物体がぐりんと回る動きに変わり、遥は膝の上で手を握りしめる。声がこぼれそうになるたびに奥歯を噛みしめ、じわっと涙が浮かんだ。 湊はちらりと遥に目をやり、シャーペンを握った右手をそっと机の下に潜らせる。 (ぁ……っ!) 甘い声を必死に耐えて、遥は湊を睨む。湊は殊更楽しそうに、シャーペンのノック部分でシャツ越しの乳首を優しくつつく。すぐさま尖り始めた乳首をくりくりと押し潰されて、二カ所からの刺激に遥は身悶えた。 「や、めろ……っ」 吐息混じりの声で促してみても、湊はにこりと微笑むだけだ。つんつんと意地悪く乳首を弄ばれ、ジーンズの前が徐々に窮屈さを訴えた。 (こんな、ところで……っ) 背中をぞくぞくと駆け上がる快感に加え、授業中という背徳感がより羞恥を煽る。神聖な学問の場でこんな淫らな行為に及んでいるのかと思うと、それだけで後孔の奥がきゅっと反応した。 「気持ちいい?」 耳元でそっと尋ねられ、遥はぶんぶんと首を振る。ふうん?と湊は怪しい笑みを浮かべ、ポケットの中でスイッチを切り替えた。途端に物体がぶるぶると激しく震え、遥は机に突っ伏してこらえる。先端からとろりと先走りがこぼれるのがわかった。 「じゃあもっと気持ちよくしないとな? お仕置きなんだから……みんなのいるところでイってみようか」 (っ………!) 目を見開いた遥の、足の間に手が滑り込む。ジーンズの上から自身をぐっと掴まれ、絶頂感が一気に押し寄せてきた。 (嫌だっ……!) 抗おうにも、遥には逃げ道がない。ただ快感をはぐらかすことしかできず、それにも限界はある。後孔をかき回され、自身を擦られてがくがくと脚が揺れた。 (も、だめだ……っ) 「─────っ!」 熱が弾けた瞬間、頭の中が真っ白になる。しかし達した後も依然として内部の物体の動きは止まらず、下肢がびくびくと何度も痙攣した。 「かわいかったよ」 チャイム代わりのブザーが鳴り、教授が教壇の上を片付け始める。生徒たちもそれに倣って帰り支度を始め、がやがやと教室中が騒がしくなった。 「ば、かっ……」 涙声しか出てこないのが情けない。絶頂の余韻に震える体を湊が支えると、ぐいと遥に胸ぐらを掴まれる。 「こんなのっ……お前にしか、させない……からな」 ──嫉妬されて安心するなんてどうかしている。こんなことはもう御免だが、きっと湊も不安なのだろう。その気持ちは遥にもよくわかる。 まだ整わない息のまま告げれば、湊は目をみはり、やがて嬉しそうに笑った。 「ほだされちゃいそうだよ、俺」 *** 羞恥プレイが書きたかった、ただそれだけです← ↑main ×
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