:: 待ち合わせはここで 2013.07.29 (Mon) 01:56 「はぁ……」 文字の書き過ぎで痛み始めた右手を振り、遥は左手で教科書をめくる。自分の答えと合っていることを確かめて、椅子の背もたれにくたりと寄りかかった。 (疲れた……) 明日──といっても既に日付は変わっているので今日になるが、テストは早朝からだ。静かに時間を刻む時計を見やり、そろそろ寝るべきだろうかと軽く目をつむる。しかし、問題集を三度は繰り返してこなさなければどうにも落ち着かない。 自分の体が睡眠不足に弱いことは知っているが、ギリギリまで追い込まないと納得ができないのだ。疲労をこらえて再び机に向かうと、そばの携帯が小さく震える。遥は目をみはった。 (まさか…) 湊は今、バイトの夜勤に行っている。勤務中にメールなんてできるのかと驚きもそこそこに、遥は携帯を開いてメールを読んだ。 『お疲れ様。そろそろ眠たくなってきたかな。 頑張り屋さんの遥も好きだけど、頑張り過ぎなくていいんだよ?』 「……」 不思議だ、と思う。 こんなに離れていても、湊にはきちんとわかってしまう。たった今、"頑張り過ぎ"ようとしたことまで。 (……寝るか) ただ、背中をそっと押すように。湊はいつも、優しく諭してくれる。そばにいてもいなくても、それだけは変わらない。 その気持ちを無駄にしたくないと遥は思った。否、時々なら応えてもいいと思った。 (きっと朝、絶対に後悔する……) おそらく凄まじい羞恥に苛まれ、湊にはからかわれ、抱きつかれ、大変な事態になることは簡単に予想できる。 ──けれど、それでも構わない。 『わかった。もう寝る』 枕を片手に、廊下を歩きながら文字を打ち込む。送信を終えてから、遥は湊の部屋のドアを開けた。 サイドボードに携帯と眼鏡を置く。少し乱れたベッドに潜り込むと、ふわりと湊の匂いが鼻をくすぐった。薄い布団を被れば、体ごとすっぽりと抱きしめられているようだ。 「ん……」 途端に微睡み始める瞳が少し憎い。遥はおとなしく目を閉じ、込み上げる安堵に浸る。 一足先に、夢の中で待っているから。 急がなくてもいいけれど、なるべく早く来てほしい。 そんな願いを胸に、遥は眠りの世界へと誘われていった。 ↑main ×
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