:: 高2湊と綾子
2017.10.24 (Tue) 22:42

・同居の許可をもらいにきた話


湊「こんにちは、綾さん。いいお天気ですね」

綾「まぁ、小宮くん。お正月ぶりね。ええ、寒いけれど爽やかな冬晴れだわ」

湊「はい。ところで、綾さんお餅好きですか?」

綾「お餅?ええ、好きですよ」

湊「実は、昨日町内会の催しで餅つきをしたんですよ。まぁ、正月の余りなんですけど…優太が張り切っちゃって、あいつ死ぬほど餅ついてきたんです。案の定うちでも余っちゃって…これ、もらってもらえませんか?」

がさがさ

綾「あらあら、きれいなお餅。まだ柔らかいわ。ありがとう小宮くん。遥も好きだから、お雑煮にしようかしら」

湊「助かります。ほんと、あらゆる味付けをして餅ピザとか餅チョコとかやったんですけどなかなか減らなくて…(^^;」

綾「ふふ…優太くんは頑張り屋さんね」

湊「今回は参りました、はは…;」

綾「そうだわ。うちにももらいもののお菓子があるの。お返しにならないでしょうけど、お茶でも飲んでいって?」

湊「いいんですか?じゃあ…お邪魔します(^^)」

綾「お菓子だから遥は食べないし、ちっとも減らないのよ。…でも、ごめんなさいね。まだ遥は寝ているみたい。ちょっと起こして…」

湊「いえいえ、大丈夫ですよ。…実を言うと、俺も餅は口実なんです」

綾「え?」

湊「綾さんにお話があって…」

綾「あらまぁ…私に?……ふふ、どんなお話かしら」

とぽとぽ

綾「お茶どうぞ。今お菓子も持ってきますからね」

湊「はい。ありがとうございます」

がさがさ

綾「焼き菓子はまだいいんだけど、生菓子を頂くと困ってしまうの。食べきれなくて」

湊「わー、きれいな練り切りですね。飾りも細かくて…なんか食べるのもったいないです(笑)」

綾「そう、眺めているだけでも楽しいわね。私の通っている箏曲サークルのお友達で、和菓子屋さんがいるのよ。いつも持ってきて下さるの」

湊「お菓子屋さんが友達って羨ましいです。これは…何の花ですか?」

綾「冬だし、椿かしら…」

湊「あ、確かに。すみません、ほんと植物知らないんです; 綾さんのは鶯ですね。かわいいなぁ。花がメジャーだと思ってましたけど、鳥もあるんですね」

綾「ええ。鳩もかわいいものだったわ。他には鈴とか、クリスマスツリーまで作ってしまったこともあったって(笑)」

湊「え、そんなのもあるんですか。すごいなぁ…」

綾「こちらに焼き菓子もあるから、遠慮しないで食べてね。私ひとりではとても食べられないなら」

湊「じゃあ、ありがたく頂きます。ん……んー、甘くておいしいです。上品で(^^)」

ずずっ

湊「やっぱり甘味にはお茶ですねー」

綾「お口に合ってよかったわ。…そうだわ。小宮くんのお話も聞かせて?」

湊「ん、そうでした。…先日、遥と進路の話をしたんです」

綾「そういえば、進路希望の書類を一緒に書いたわ」

湊「はい、それがきっかけで。遥は変わらずK大志望だったので安心しました」

綾「ここから一番近い大学がそこですものね。担任の先生は、もっと上の学校を薦めて下さったみたいだけれど…」

湊「K大にすごい教授がいるらしいんですよ。遥が好きな本の著者らしくて、それもあるんだと思います」

綾「まぁ、そうなの。でも遥が決めたのなら、私はそれでいいと思うわ。家を出てしまうのは少し寂しいけれどね」

湊「はい。ここから通うのはかなり厳しいですし…」

綾「そういえば小宮くんは?どうなさるの?」

湊「…俺もK大に進みたいと思ってます」

綾「あら、それは嬉しいわ。そうよね、近場ですもの。高校からも、何人かの方は一緒になるかもしれないものね」

湊「ええ。まぁ…その、正直学力のほうはてんでだめなんで、これから猛勉強しないとですけど…;」

綾「小宮くんなら大丈夫ですよ。高校受験だってとても頑張っていたもの」

湊「はい、頑張ります; 」

綾「ふふ。また御守りをもらってきましょうね」

湊「あの…」

綾「?」

湊「今日は、綾さんにお許しというか…許可をお願いにきました」

綾「え?」

湊「お願いです。もし俺がK大に現役で合格できたら…遥と一緒に住ませて下さい」

綾「え、えぇ…?」

湊「合格したら俺も家を出ますし、なるべく大学の近くにアパートを借りるつもりです。それで…遥とルームシェアができたらいいなと思ってて」

綾「ルームシェアって…ひとつのお部屋に、何人かで住むことよね?」

湊「はい。勉強もありますし、あまり干渉しすぎないように個人の部屋は分けます。あ、これ間取りです」

綾「あらまぁ、どこから…?」

湊「俺の叔母が不動産関係の仕事なんで、ちょっと調べてもらったんです。これは例ですけど…この洋室二つが、個人部屋です」

綾「待って、眼鏡をかけるから……よいしょ。はい、ここね」

湊「そうです。で、この広いところが居間になります」

綾「ええと…お勝手は…」

湊「あ、台所は居間の中で…壁際のここですね。完全に区切られてはいなくて、調理台と上の棚の間から居間が見えるようになってます」

綾「まぁ。今のお宅はそうなのね」

湊「はい。ここにこたつ出してご飯食べたりする感じです。居間のガラス戸からベランダに出られます。で、こっちが水回りで、玄関の隣がトイレ、ここが洗面とお風呂です」

綾「結構広いのねぇ。日当たりは…」

湊「ベランダは南向きです。ここ二階の角部屋なんで、個人部屋のここにも窓はあります」

綾「築年数もまだ新しいのね。これ、誰か来た時はどうなるのかしら…」

湊「モニター付きのインターホンがリビングのこの辺にあって、ピンポーンって押されると外が見えるんですよ。会話もできます。あっちからは中が見えないので、怪しい人なら居留守使えば…」

綾「そう、ちゃんと見えるのね。それなら安心だわ。何かと最近物騒だし…」

湊「大学のそばだと宗教とかうるさいですからね」

綾「私は部屋を借りたことがないものだから、疎くてごめんなさいね。例えばこのお部屋だと、お値段はどのくらいになるの…?」

湊「交渉次第でもあるんですけど、だいたいこのくらいですね」

カタカタ

綾「あら…?思ったより安いように思えるけれど…」

湊「ええ。まずルームシェアなので単純にひとりでワンルームに住むよりは安いですし、ここの場合だと駅が遠いんです」

綾「えぇと、交通の便が悪いのかしら?」

湊「賃貸は駅が基準になることも多くて、遠ければ安くはなります。でもこの部屋は大学から徒歩十分なんです。東京みたいに通学で電車に乗るなら別ですけど、歩くなら駅は関係ないと思って」

綾「確かにそうね。学校に近いことが一番だもの。あの子、あまり寝起きもよくないし」

湊「参考に、このアパートの周辺地図をGoogleマップで印刷してきました。これです」

ばさっ

湊「ここがアパート、大学がこっち。一キロ弱です」

綾「あら、本当に近いのね」

湊「ルームシェアでなければもっと近いところはわんさかあるんですけどね。でもここ、近くにコンビニと病院があるんです」

綾「そうねぇ。病気は心配だもの、近いほうがいいわ」

湊「スーパーもなかなか近くて、学校とは反対ですけど学校より近いくらいなんです」

綾「日用品とか、二人だと買うものも多いでしょうしね」

湊「あと、ここが百均。あ、百円店です。これは大事ですよ」

綾「?そうなの…?」

湊「引っ越ししたばかりで小物がない時、あるとすごく便利って聞きます。ほら、布巾とかザルとか菜箸とか…そういうものって家からいちいち持っていかないから、現地で買う羽目になるんです」

綾「あぁ、なるほどねぇ。そんな細々したものまで運ばないものね。…小宮くんは本当にしっかり考えてるのね、すごいわ」

湊「しっかり考えたかったんです。…お孫さんを預かる身として」

綾「ふふ。……いいの?あの子で」

湊「あの子だからいいんです」

綾「大学生活はとても楽しいって聞くわ。せっかくの青春だもの……あの子にかかりきりでなくても、いいのよ?」

湊「…そうですね。逆に俺が干渉することで、もしかしたら遥にとっては逆に自立の機会を奪うことになるのかもしれません。でも…遥は、一緒に住んでもいいって言ってくれました。うまくいくかどうかはわからないけど、お互いやれる範囲で頑張ってみたいんです」

綾「そう。あの子…誰かと同じ空間で生活できるようになったの。よかった」

湊「俺が、ごり押ししたっていえばそうなんですけどね…;」

綾「大丈夫。あの子のことだもの、本当に嫌ならそう言うわ。……ありがとう、小宮くん。頼りない子だけど、少しずつしっかりしてきたのはあなたのおかげですよ」

湊「いやいや、そんなこと…」

綾「あの子…遥を、これからもよろしくお願いします」

湊「……はい」

綾「ふふ。…さ、召し上がって?お茶もおかわり淹れましょうね」

湊「あ。すみません、これ片づけますね」

綾「いえいえ。他にも聞かせてほしいわ、来年のために」

湊「…じゃあ、食べながらゆっくり話しましょうか(笑)」


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