:: 晶視点の湊遥
2014.03.17 (Mon) 22:48

・湊遥というか湊←遥?
・湊は出ません;


「ドライブ行こーよ」

こたつでセンターの過去問をがりがりやってる遥に声をかけたけど、返事は来ない。やれやれ、ほんと好かれてないなぁ。

「問題集買ってあげるからさ。おばあちゃんにも買い物頼まれてるし、ちょっとくらい付き合ってよ」

餌で釣ろうと譲歩案を出したら、遥は割と簡単に勉強道具を片づけ始めた。よしよし。

「一時間で済ませる」

「はいはい」

まぁ、センター試験前に外に連れ出すのも気が引けるけどさ。まだ日にちはあるし、もう何日も引きこもってるし、少しくらい気晴らしさせないと根詰めてやっちゃうからね。

「先に車乗ってるから」

着替えようと階段を上っていった背中に声かけて、玄関に向かう。さて、どこに行こうかな。



「買い物って……なんだ」

怠そうにシートベルトを締めて、遥がこっちを見る。ああ、早く済ませたいって顔してる。そんなに嫌がらなくてもいいのに、ほんと出不精ね。

「植物の栄養剤。とりあえずホームセンター行くわ」

家の駐車場から、ハンドルを切って道に出る。この車は普段出勤する時に使ってる車で、まだ買って間もない。去年までは県外の短大に通ってたし。で、地元に戻って就職してまた遥とおばあちゃんと住んだのに、今度は遥が大学進学で家を出てくってわけ。なんだかなぁ。

「あんた、模試はどうだったの? こないだ土曜日に学校行ってたじゃん」

緑蘭は普通に進学校だから、三年生なら当然、土曜日は模試だの課外だの嫌というほど詰め込まれてる。まぁ、遥は頭いいから平気そうだけど。

「A判定」

「へー、やっぱ? てか、もっと上の大学行ったら?」

半年前からずっと志望校はその判定で、担任の先生ももっと高いとこ狙えるって言ってたっけ。実際、試しに書かせた私立大も名の知れたところだったけど、楽に行けるらしいし。あーもったいない。

「別に……実家に近くて、教育免許が取れるなら…いいだろ」

「ふーん?」

そっぽ向いてぼそぼそ喋って、下手な言い訳しなくてもいいのにね。おねーちゃんを甘く見ないでほしい。

「そんなに小宮くんと同棲したいの?」

「どっ……!」

瞬時に大きくなった目が、今度はこっちを睨みつける。目の前の赤信号より赤いんだけどね、ほっぺが。

「そんなのじゃない……ただ」

「はいはい、一緒に住むだけね。睨まないでよ冗談なんだから」

そんな本気で返されたら丸わかりじゃない。遥は本当に嘘が下手ね。小宮くんなら、そうなんですよ楽しみです、って冗談か本気かわかんない返事をするのに。
ふん、ってまた窓の外に顔を向けた遥に一言。

「でもあたしは反対だなぁ」

「………え」

「だってさぁ。他人で一緒に住める人種って、限られてるでしょ。特にあんたは」

「それでも…おま…姉貴には関係ないだろ…」

あ、今お前って言いそうになった。全く、まだまだ子供の甘ちゃんなんだから。

「あんたや小宮くんがしっかりしてないわけじゃないけどさ、ほんとにそれでいいの? ひとりきりの寂しさがない代わりに、どっかで必ず相手が負担になるよ。今のうちにひとり暮らしに慣れといて、それからでもいいんじゃない?」

ぐっ、て遥は黙っちゃった。あーあ、泣きそうな顔してる。こんなふうにいじめてるの、小宮くんが知ったら怒られちゃうかなぁ。でもねぇ、祝福されるばっかりじゃないってことはわかってほしい。もちろん遥がそれで幸せなら応援してあげるけど、そう簡単に認めたくない気持ちもあるのよ。きっとおばあちゃんもそう。

「……あいつは、他の奴とは違う…」

ぽつぽつと小さな声が車の中に響く。膝の上の手をぎゅって握って、遥は声を絞り出してた。

「同じ場所にいても、疲れたり…気を遣ったり、しない。負担になんか…ならない。あいつは……特別だ」

「…なぁんだ」

くすって笑ったら、遥がむっとしてきた。真面目に話してるのに笑うなってことね。

「もういいわよ、のろけはその辺で」

「のっ……違う!」

ああほら、また真っ赤。凄いなぁ小宮くん、どうやってここまで好かれたんだろ。よっぽど遥のことを理解しようって気がないと、こんなに距離は詰められないわ。なんかちょっと悔しいかもね。

「頑張りなよ。小宮くんに任せきりじゃ申し訳ないし」

あの子のことだからたぶん、遥にやらせないようにって自分でこなしちゃうだろうけど。でもまぁ、たまにはね。遥にできることもあるはずだから。
遥はむっつりしたまま頷いて、外を向いちゃった。知らないんだろうけど、耳赤いよ。いくら同棲を否定しても、これじゃあね。まったく、弟を嫁に出す姉の身にもなってほしいわ。


***
なんとなく書きたくなったので。


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