:: シンデレラ
2014.01.26 (Sun) 01:14

・シンデレラパロ
・生暖かい目でお読み下さい


「シンデレラ、あたしご飯は豚肉がい……ってちょっと待ちなさいよ何してんのそれまだ生ぁ! いいよもー、凌也兄がご飯作って。あんたは掃除」

「……はい」

昔々、あるところにシンデレラというみすぼらしい娘(?)がおりました。娘として育てられたので一応娘としておきます。しかし彼です。彼は幼くして両親を亡くし、病気の祖母のために名家へ奉公に出ていました。
名家には兄と妹がおりましたが、シンデレラをこき使ってばかりでした。

「なんでも俺にさせるな。少しは自分で…」

「だぁってあたしお嬢だしぃ。召使いは役に立たないしさぁ」

シンデレラは何も言わず、生焼けの豚肉を片付け始めました。雇われてからしばらく経ちますが、掃除や洗濯はともかく、料理はちっとも上達しません。
空腹である妹の佳奈子は兄の凌也を急かし、食器をガタガタさせています。しかし、不意にあっと声を上げました。

「そーだ、今夜は城のパーティーなのよ。王子様がお妃を決めるんだってさ、んふふ」

「行く気か。食い意地を張らせて終わりだと思うが」

「何言ってんの、凌也兄も行くのよ?」

佳奈子は頬を膨らませて憤慨しますが、シンデレラも凌也と同意見でした。そもそも佳奈子はあまり恋愛に乗り気ではないようですし、もっぱらご馳走目当てに行くのだと思っていたのです。

「シンデレラ、あたしのドレス後で出しといてね。あと、馬車の手配もよろしくー」

「…はい」

佳奈子は次々と出来上がっていく料理に手をつけながら、浮かれた声でそう言います。ぐきゅるる、と恨めしげに鳴く胃袋を撫で、シンデレラはため息をつきました。



そして、夜。
正装した二人の荷物を傍らで運び、シンデレラは馬車の乗り口までお供します。

「よっし、それじゃ行こっか。あっ、シンデレラ。ちゃんと夜食作っといてよ。インスタントラーメンでいいから」

「はい」

お辞儀をしている間に戸は閉まり、二人を乗せた馬車は城のある丘へ向かっていきました。

「はぁ……」

すごすごと屋敷に引き返したシンデレラは、掃除中に穴が開いてしまった服を繕うべく、裁縫箱を探しました。二人がいる時だと用事を言いつけられてしまうので、こうした時間はなかなか取れないのです。

『きゃー!』

棚の上に手を伸ばしかけたその時です。外から子供の悲鳴が聞こえました。シンデレラは慌てて玄関へ走り、扉を開けました。

「きゅうー。お星様がいっぱいです…」

「なんだ、お前……」

三角帽子を被った男の子が芝生に倒れており、傍らには星の杖が落ちています。そっと助け起こすと、男の子はゆっくりと目を開き、辺りを見回しました。

「あれぇ? うーん、間違えちゃったのかなぁ……あっ、助けて下さってどうもありがとうございます!」

シンデレラの存在にやっと気づいたのか、男の子はすくっと立ち上がって一礼しました。見れば、裾の長い暗色のローブを着ています。

「別に……礼を言われるようなことはしてない」

「ほぇ、でもここで会ったのも何かの縁ですし。自己紹介が遅れましたね、僕は魔法使いかりんです」

じゃーん、と効果音まで付けて星の杖を振りかざしますが、シンデレラはなんとも言えない表情を浮かべています。

「頭でも……打ったか」

「あっ、疑ってますね。じゃあ証拠をお見せしましょう。ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー!」

どこぞのアニメ紛いの呪文を唱え、かりんは杖を振ります。するとどうでしょう、継ぎ接ぎだらけだったシンデレラの服が、あっという間にドレスへ変化しました。これにはシンデレラも驚きます。

「ど、どうやって…」

「これが魔法使いの実力です、えっへん」

かわいらしく胸を張る姿はどう見ても子供なのですが、魔力は確かなようです。しかしドレス姿のシンデレラは再び渋面に戻りました。

「わかったから戻せ。こんな服は必要ない」

「ほぇ、残念です。せっかくお城で舞踏会があるんですから、行ってみてはどうですか?」

かりんは丘の上から漏れる小さな明かりを指差します。それでもシンデレラは首を振りました。

「俺が行くような場所じゃないだろ。だいたい、どうやって……」

「それなら問題ありません。これが……あれっ、あれあれっ! あっ、あったぁ」

芝生の少し先に転がっていた箒を大事そうに抱いてかりんは戻ってきます。まさかそれに乗るのかとシンデレラが嫌そうに顔をしかめますが、かりんはお構いなしです。

「さぁ、どうぞ。もちろん横向きに座って下さいね」

「誰が行くなんて言った。俺が行ったところで何も……」

「ええ、パーティーの目的はお妃候補を選ぶためですけど。おいしいご馳走もありますし、他のセレブの皆さんに気に入られたら玉の輿ですよ。ね?」

かりんに微笑まれて、シンデレラは諦めたように息を吐き、箒に腰を乗せます。

(ただの、退屈しのぎだ)

なんてことはありません。主人たちが帰宅するまで、という限られた自由時間をたまには有意義に過ごそうと思っただけです。もし佳奈子や凌也に会ったとしても、この格好を見る限りでは彼らも気づかないでしょう。

「しゅっぱーつ! 安心して下さい、今度は安全運転で行きますので」

さっきは小鳥さんとぶつかりそうになったんですー、と呑気にかりんが話す間に、箒がふわりと浮き上がります。シンデレラは急いでかりんの背にしがみつきました。

「さて参りましょう。いざ、お城へ」

夜の闇の中を、二人を乗せた箒が颯爽と進んでいきました。


***
続く。残りの配役を予想してみて下さい

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