:: ペットパロ
2013.10.21 (Mon) 19:55

・凌也以外みんな犬猫

軽い設定:
みなと→黒犬。散歩中のかりんを助け、りょーやに飼われることに。はるかに一目惚れ。
はるか→元は野良。縄張りを追われたのをりょーやに拾われる。白猫。風呂と鶏肉が好き。
かなこ→よく吠える茶犬。野良でも生きていけそう。人一倍がめついが優しい時は優しい。
つばさ→何故か居着いた茶猫。高貴アピールする割に普通の餌食べてる。はるかが好き。
かりん→ちっちゃい柴的な犬。りょーやに一番懐き、一緒に寝ている。散歩が好き。
りょーや→人間。増やすつもりなかったのに増えていくペットたちをしぶしぶ世話する。


「あーあっ、お腹減ったぁ。早く帰ってきなさいよね」

ぶつくさと文句を呟き、かなこは暇そうに毛布へ寝そべる。その隣ではかりんがすうすうと呑気に眠っていた。

「んー、いつもより遅いよな。なんかあったかな」

「またペットショップでも覗いているのではないか?」

猫用ベッドに悠然とふんぞり返り、つばさがため息をつく。そうかなぁ、とみなとは黒い瞳を道に向けた。いつもなら、あの道の向こうからりょーやが帰ってくる頃合いだ。

「あっ」

ゆらりと見えた人影に、みなとは立ち上がる。声に気づいたかなこも後ろから駆けてきた。

「やった! ごはんごはんっと。ほらかりんちゃん、あいつ帰ってきたよん」

「ほにゃ……」

寝ぼけ眼を前脚で擦り、かりんは前方を見つめる。飼い主を認識するなり、軽々と塀を越えて走っていった。

「あらあら」

いつもの光景に三匹は苦笑を浮かべる。飼い主に一番懐いているのはかりんなのだ。

「お帰りなさい!」

くるくると足元の周りを回って、かりんは嬉しそうに飛び跳ねる。常ならば抱き上げてくれるその腕には、あいにくながら先客がいた。みなとたちも、りょーやに抱かれた灰色の塊を眺めては訝しんでいる。

「なんだ、あれ?」

「さぁ……」

そうこうしているうちにりょーやが玄関までたどり着き、空いている毛布の上に塊を置く。まじまじと見て初めて、それが生き物だとわかった。

「今日からここで飼うことになった。猫だ」

「「猫!?」」

灰色の毛玉のようなそれはプルプルと震え、りょーやが手を触れようとするとすかさず毛布に潜り込む。りょーやの手はそこかしこに引っかき傷ができていた。

「商店街の隅で拾った。怪我をしていてな。病院に連れていったが、医者が言うには軽傷のようだ。ただ、警戒心が強くてちっとも懐かない。おそらく他の猫と喧嘩したんだろう」

「ほぇ……っ」

かりんはりょーやの手の傷を舐めていたが、話を聞くと泣きそうな瞳を毛布に向ける。そんなかりんを腕に抱き、りょーやも悩んでいるようだった。

「なぁ。出てこいよ」

「ちょっ、あんた……っ」

みなとは臆することなく一歩を踏み出し、毛布をかぷりとくわえて剥がす。毛玉はびくりと跳ねてみなとの前脚に噛みついた。つばさが慌ててみなとを制す。

「やめておきたまえ! 君が怪我をするぞっ」

「怖くないよ。俺たちはみんな家族だから。お前を傷つけたり、悲しませたりする奴はもういないから。ね」

フー、と低く唸る毛玉は顔を上げ、みなとを睨みつける。みなとがまた一歩近づくと、鋭い爪が振りかざされ、前脚にうっすらと血が滲んだ。

「ちょっとりょーや! あのままじゃ…」

「いや。あいつに任せたほうがいい」

かなこの言葉に首を振り、りょーやは二匹を見守る。塊は四本脚で立ち上がったが、後ろ脚の傷が痛むのかすぐによろけた。

「痛いのか? 大丈夫、こうやってれば治るからな」

傷をぺろりと舐められ、毛玉は思わず後ずさる。みなとはゆっくりと近づいた。

「怖かったよな。喧嘩なんて俺も昔してきたけど、あんまりいいもんじゃないしさ。でも、ここにいれば安心だから。お前のことは、ここにいるみんなが守るよ。もう、ひとりぼっちになんかさせない」

「………」

しゅん、と毛玉は下を向き、やがて震えが止まる。みなとが歩み寄り、顔や傷を舐めてもおとなしくしていた。

「仲良く…なれたんでしょうか」

やり取りを見つめていたかりんがぴょいと腕から飛び降り、二匹のもとへ駆けていく。かなことつばさもおずおずと寄っていった。

「こんにちは、猫さん。僕、かりんです。よろしくお願いします」

猫の瞳がちらりとかりんを捉え、小さく頷く。

「あたし、かなこだよ。さっきはごめんね、びっくりしちゃって。仲良くしようね」

「私はつばさだ。同じ猫同士、どうか仲良くしてくれたまえ」

順番に頭を振り、やがて猫はみなとを見つめる。お前は?と問いかけているのだろうか。

「俺はみなと。で、あっちが飼い主のりょーや。みんな、この家で一緒に暮らしてるんだ。お前も今日から、ここの一員だよ」

よろしくな、と笑ったみなとはぺろりと顔を舐める。猫もおもむろにしゃがみ、みなとの前脚にぺろぺろと舌を這わせた。さっき、爪で傷を負わせた場所だ。ごめんなさい、という意味だろう。

「あ、ありがと。でもその、猫の舌ってざらざらだからちょっ…い、いたっ」

「!」

涙目のみなとはりょーやに手当てをしてもらうべく、ぴょんと跳躍してかなこたちを飛び越える。猫は少し落ち込んでいるように見えた。

「そういえば君、名前はなんていうの?」

「……ない」

かなこの尋ねに、猫は初めて口を開く。人間にしてみればよくわからないが、彼らにとってはなんとも中性的な声だった。

「でも、病院に行くとお名前呼ばれますよね? りょーやさん、お名前は…」

「はるか」

ぴくり、と猫の耳が僅かに動く。りょーやは続けた。

「呼びやすいからな」

「そっか、はるかちゃんね。よろしくー」

かなこが早速呼び、続いてつばさやかりんもその名を口にした。

「はるか、お前もこっち来いよ。傷、ちゃんと処置してもらおう?」

そしてみなとからも当然のように呼ばれ、はるかは後ろ脚を庇いながらりょーやの元へ向かう。

「少し待っていろ。お前はまず、きちんと体を洗ってからのほうがいい」

「確かにそうだな。風呂入れてもらえよ」

りょーやは湯の準備をするべく、タライを風呂場に持っていった。はるかはみなとの隣でおとなしく待っている。

「……さっきは…悪かった」

「え?」

不意に聞こえた小さな声に、みなとは横を向く。はるかは顔を背けてしまった。

「引っかいて…悪かった、って……」

精一杯らしい謝罪を聞き、みなとははるかの背中に笑いかけた。

「気にしてないって。あっほら、お湯持ってきたみたいだし、体きれいにしてこいよ。水、嫌いか?」

みなとの問いかけに、はるかはふるふると頭を振る。準備を終えたりょーやが手招きすると、はるかはゆっくりとタライに近づいた。



「あ……あれっ?」

「なんだと……」

「ほぇ……」

「あららぁ…」

四匹はぽかんと口を開け、何度も瞬きをしている。たくさんの視線を浴びせられ、はるかは居心地悪そうにりょーやの陰に隠れた。

りょーやにしっかりとシャンプーしてもらった体は、灰色の毛玉だったとは思えないほど美しい白に変わった。ブラッシングで毛並みもつやつや、怪我をした場所も薬と包帯で処置してある。それだけでも驚いたのだが、何より。

「男だったのかい……」

つばさが何やらがっかりしたような声を放つ。かなこもかりんも、顔立ちからすっかり女の子だと思い込んでいたらしい。

「えっ。お前ら気づかなかったのか」

みなとだけはわかっていたらしく、きれいになった顔をぺろぺろと舐めている。はるかが嫌そうに前脚を突っ張っていた。

「汚れてた時も顔はきれいだと思ったけど、こんなかわいい子だなんて思わなかったなぁ。真っ白で毛並みもさらさらで……ハァハァ、食べちゃいたい」

「!?」

「もう男とかどうでもいいや。はるか、はるかぁっ」

「やめろっ」

じゃれついてきたみなとから逃れ、再び迫られては逃れ。はるかはとうとう毛布に潜り込んだ。
近所のかわいい犬たちから熱烈なアピールを受けてもあっさり流すようなみなとが、まさかここで恋に落ちるとは。他三匹と一人は苦笑いを浮かべて見守っていた。


***
続く気がする。

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