「なまえ。たまには試合に来ないか?」 「え、」 「いいだろ。子どもができてから、なかなか来てくれないじゃないか。久しぶりに応援してほしい」 「うーん、嫌ではないけど…」 「どうしてダメなんだ?子どもにもオレがサッカーしてる姿を見せたい。この前なんか、パパはお仕事してるの?なんて言われたぞ。それに俺たちの子だ、きっとサッカーにも興味を持つよ」 「それは分かるけどね…。でもなぁ…」 なんて、眉毛を寄せたら、幸次郎は寂しそうな目をした。彼がそんなふうに思ってしまうのも分かるけれど。私が躊躇う理由はただひとつ。それこそ、子どもだ。 「今の時期、子どもはなんでも吸収してしまうんだ。ヤジなんかも覚えてしまわないか、心配でさ」 「あ……」 「だろう?まぁ子どもなら大丈夫だとは思うけれど…」 「そ、うか…。そう、だよな…」 初めのうちは彼も、ごもごもと次の言葉を必死に繕っているように見えたが、少しすると諦めたのかへにゃりと笑って、なら今度、絶対に来てくれよと言った。その仔犬のような表情に、私の心は掻き乱される。本当は来て欲しいくせに、似合わない痩せ我慢をしているんだ。私は幸次郎にはそんな表情して欲しくない。そこで気がついた。最近は子どもにばかり気がいって、幸次郎を二の次にしていたことを。…どうも私は、母と妻をうまく使いこなせていないようだ。 「…幸次郎そんな顔しないでよ」 「…ん」 「わかった、わかった。…何事も経験が大事っていうものね。正しくないことから目をそらすのではなくて、正しいことを教えてあげるのが本当の親かもしれない」 「なまえ…!」 ね?と彼をみたら、うるうると目に涙を溜めていた。そのまま嬉しそうに私の手を取ると、1番良い席を用意させるからな!と意気込んで玄関から出ていく。私はそんな彼を見送って、ぎょっとした。 「ちょ、幸次郎!パジャマ!」 彼のクマさん柄のパジャマは、晴天の元へ曝されて。井戸端会議中のご近所さんから笑われた。 「暑い…」 幸次郎の試合当日、この日は雲一つ無い晴れ模様だった。試合日和というには日差しが強すぎるし、まして隣に座る男が、 「なまえ、今日は涼しいな」 なんて言うから、殴ってやろうかと思った。 「ビヨン、君は一体どういう神経をしてるんだ。今日は暑い。そうだろう?」 「それはお前が肌を露出しているからだろ。隠した方が日光を防げて涼しい時もあるんだよ」 「そ、そう…?」 私が納得がいかないとばかりに唸ると、彼は、じゃあ試すか?とばかりに悪戯っぽく微笑んだ。 「なにそれ?タオル?」 しばらくして彼が取り出したのは、かなり大きめのタオルだった。彼はそれを雨宿りするときのように、私と自身の頭に被せる。私はわけが分からずに困惑していたけれど、彼は満足そうだった。 「確かに日差しは遮られるけど…これって二人で被る意味…」 あるの?と言うと同時に彼の方を見て、ぎょっとした。彼は私の顔を見て動かないではないか。 「ちょ、ちょっと…?ビヨン…?」 吸い寄せられるように彼が近づいてくる。これはまずいと察して身構えたが、彼は直前で止まり、こう呟いた。 「これがジャパニーズカケオチの正式なユニフォームなんだよな?…なまえ、俺とカケオチしないか?」 酷く真面目な顔で彼は言い切った。私は半分呆れながら、 「どうして君たちの日本知識はそう偏っているんだ!」 と、コンと頭を小突いた。 |