「なまえ!今日は!子どもの運動会だぞ!」

「う、うん…」


幸次郎はいつになく元気に私をたたき起こした。その声で目を覚ました私はびっくりして、まばたきをする。なんたって、幸次郎はすでにお出かけスタイル(と、いうよりは運動会参戦スタイルか?)で私を見下ろしていたからだ。


「…ま、まだ3時なんだけどな」


そんな私の言葉すら届いていないようで。


「よーし、今日はみんなでランニングだ!」


なんて、いきり立つ姿はまさにスポーツマン。寝室で準備運動を始めてしまった。


「ちょ、埃が舞うでしょ!」

「ん?そんなの、なまえが起きないのが悪いんだぞ?それとも、甘えているのか?」

「えぇ?」

「着替えたくないんだろ?だったら、そこでボーっとしてるといいよ。俺が着替えさせてやる」


にこり、そんな笑い方で、幸次郎は近づいてきた。私は嫌な予感しかしなくて。


「や、やめ…」


拒否する言葉も思い浮かばぬ間に、再びベッドに押し付けられた。いつものようにもがいてみるが、やっぱり幸次郎の力は強い。


「わかった!わかったから!」


私の必死の制止に、幸次郎は寝巻きのボタンにかけていた手をピタリと止めて。やっと着替える気になったか?と微笑んだ。彼はたまにこういった強行手段に出るから恐いなぁと思いつつ、諦めて体を起こした。










「じゃ、ランニングに行こうか!」


そんなところはまるで子どもだなぁなんて、思ったりするけれど。それだけ子ども思いなのかもしれないと、頷く。


「かあさん?何してるの?」


そんなこんなで騒いでいたら、子どもが起き出したらしい。幸次郎は今かとばかりに、彼をランニングに誘っている。しかし、


「…外、大雨だよ。雨の日はうんどう会ないって、先生いってたよ」

「な、なんだと!?それは本当か?」


こくりと子どもは頷く。救いを求めるような目で私をみる幸次郎だが、私は肩をすくめてみせた。確かに外からは雨の音がする。しかもざーざーと大雨だ。運動会は確実に延期だろう。


「うわ、本当だね。幸次郎と話していて気がつかなかったよ。はやとちりというか、なんというか。……詰めが甘かったね」


そう幸次郎に言うと、なんという失態を…と、呟いていた。子どもはすたすたと自分の部屋に戻っていくし、幸次郎は部屋のすみでうなだれている。そんな彼が可哀相で、近づいたらギュツとパジャマの裾を引っ張られた。


「明日こそ、ランニングだぞ」


なんだ、ただ一緒に走りたいだけか…。溜め息をついたら、彼は首を傾げた。











「いてて…」

「どうした」

「いやぁ、久しぶりに運動したら、筋肉痛でさ。しかも幸次郎は手加減しないからもう…」

「お、お前っ!そ、そんなことを私に言うのか!」


私は、は?と聞き返した。明らかに話が食い違っている。彼が白い肌を真っ赤にしているところをみると、間違いないらしい。


「いや待て、治。君は何か勘違いをしている」


びしっと顔の前に手をかざしてみる。すると彼はぐっと息を飲んだ。


「い、い、いや、いやだが…」

「うん」

「ふ、夫婦の…その、夜のう、運動について…は、話されてもだな…こま…」

「うーん、ばか」


まさか笑顔であの治をひっぱたく日が来るとは思わなかった。彼が顔を染めるのをやめないので、私は諦めて空を見上げる。すると彼もそれに従った。


「綺麗だなぁ…」

「………そうだな」

「………」

「なぁ…、なまえ…」

「ん?」

「その…お前の夫は、あんな顔でサドなのか?」


あっ、ベッドの上では性格変わるとか、そういうのか!?なんて、私の顔を見ていない彼は続けた。私はその表情を崩さぬまま、彼が読んでいた本を奪い取る。はてなマークを頭の上に掲げる彼を尻目に、


「どあほう!」


と、再びひっぱたいた。

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