今日は子どもの小学校入学式。桜舞う中の、入学式らしい入学式だった。でも、そんな清々しい天気とは正反対に、子どもはまがまがしい雰囲気を放っているではないか。理由としては、


「源田選手の息子さん!?」


と、みんながみんな、子どもをそう呼ぶからだ。初めての入学式だというのに、きっとうんざりしているのだろう。


「大丈夫?」


私が声をかけると、子どもは小首を傾げて私を見た。


「とうさん、は?」


その言葉に、私はたじろいだ。幸次郎はあれでも(?)プロ選手の身。いつだって都合がつくわけではない。だけど、この一人っ子のご時世に、入学式で家族が揃わないところなんて、ごく僅か。子どもがそう疑問に持つのはよく分かっていた。


「あのね、お父さんは忙しいんだ。昨日は頑張って行くよなんていっていたけど、本当は…」


そこまで言って、息が詰まった。子どもの目がみるみるうちに潤んできたから。あの我慢強い子だからこそ、ずきりと胸が痛む。…無言の時間。お互いがいたたまれない気持ちになっていた。


「へぇ、なまえは意外と手厳しい母さんだな」

「ふ、そうだな。だが、教育的には間違ってはいないと思うぞ」


そんな静寂を裂いたのは、どこか聞き覚えのある声。振り返れば、見たことのある二人組が立っていた。ドレッドヘアーの赤い目と、眼帯をしている銀の髪。それはまさに、


「鬼道くん!佐久間くん!」


帝国の仲間たちだ。今では二人とも、世界区で活躍しているプレイヤー。結婚式以来会っていなかったので(幸次郎は遠征先で何度も会っていたようだが)、とても懐かしかった。どう言葉を続けようか迷っていたところで、彼らから欧米風に挨拶をされることになる。


「ちょ…」


ハグ、そしてキス。いつの間に、こんなことをするようになったのだろう。私は恥ずかしくて顔が真っ赤になって。なんと、佐久間くんは子どもにも同じことをしたかったらしいが、すたこらと逃げられたので頭をかいていた。


「やばいな、嫌われたかも」

「それはそうだ。母親にそんなことをされれば、俺だって怒る」


ハッハッハと二人は大きな声で笑った。なんだか性格まで明るくなったようだ。私は少し、嬉しかった。


「そういえば、急にどうしたの?」

「…え?」

「いや、え?じゃなくて。…どうして急に日本に帰って来て、何をするでもなく、ここへ来たの?」

「あー、それか。実は二人にプレゼントがあるんだ」


佐久間くんは鬼道くんと目を合わせ、ねーという動作をした。そうして彼は子どもの頭に手を置き、優しい口調で伝える。


「佐久間お兄さんと鬼道おじさんからのからのプレゼントだぞ。受けとってくれ」

「おじさんとはなんだ」


佐久間くんはそんな鬼道くんに笑いかけると、がらりと扉を開いた。そしてそこには幸次郎の姿。私は一瞬固まった。地球の裏側にいるから、一週間は帰れないといっていた幸次郎がいるのだから。子どももあまりの驚きに喜ぶどころか固まって。その元凶である幸次郎の第一声はまさかの、


「お腹痛い……」


だった。











「そんなわけで、そのあと乗り物酔いした幸次郎をみんなで看病したって話」

「はん、あいつらも暇だな。どうやって日本まできたんだか」

「それは機密だ、キリッ。なんて、鬼道くんがいっていたよ」


その言葉に不動くんは舌打ちをした。ついでに大きい溜め息もついてみせる。


「あーあーあー、鬼道ちゃんは気障だねぇ。そんなとこに憧れるか?なまえちゃんはよォ」

「えっ、私?私は…、どうだろう」

「あん?」

「私は気障とか、そういうのわかんないや。ただ、優しいなぁって、思ってしまったよ」


ふにゃりと笑い、ごまかした。そのごまかしにも、不動くんはぽかんとしていたので、馬鹿にされるかなぁと内心、不安になる。


「…けっ、素直だな」


は?と、思わず聞き返した。不動くんに似合わない、それこそ素直な言葉だったからだ。


「るせーよ。…そんな素直なとこに、惹かれただけだ。昔の俺は、素直じゃなかったからよ」


そう言うと、彼はがりがりと頭をかいた。しばらくして、なーんてな、信じたか、バーカ。と、言われたけれど、彼の瞳はとても寂しそうに見えた。


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