「すっごい…かわいい…」


これは最近になって聞き慣れてきた、彼の新しい口癖である。にへーなんて目尻を下げて、口元を緩ませ。キングオブゴールキーパーなんて貫禄は、まるで見受けられない。それどころか、親バカだ。いくらなんでも、これは人には見せられない。


「もう幸次郎、顔を引き締めて!それに、そんなに近くで騒いだら、起きちゃうだろ!」

「えっ、あ、おっと。…すまないな、あんまり可愛くて」

「それはさっき聞いた」

「はは、そうだったか?」


彼は苦笑いすると、頭をかきながら近づいてきた。私の目の前まできて、瞳を閉じ、首すじにキスをする。それがいつもの彼だ。学園時代から変わらない。


そう、私たちは学生時代に付き合った。普段からぽかんとしている彼を私がほっとけなかったというか、なんというか。中学生という身で同居じみたことをしてしまったのだから、自分でも驚きだ。…学校を卒業してからも私たちは付き合いを続け、長年を経て結婚した。鬼道くんには収まるところに収まったな。なんて言われたけど、それを言われるたび、首謀者のくせになんて思ったりする。まぁ幸次郎が好きという気持ちに嘘はないから、ここは感謝すべきところなのかもしれないけれど、鬼道くんや佐久間くんのしてやったり顔を見ると、それも失せるのだ。それからまた数年が経ち、ついに子どもを授かった。子どもができたら幸次郎も何か変わるかなぁなんて思っていたけれど、まぁこの通りだ。いつまでも彼は変わらない。無邪気にただ受け入れるだけ。でもそんな彼を見ると、元気になるのも事実だった。私がぼーっとそんなことを考えていると、彼は照れながらこう言った。


「…なまえ、子どもを産んでくれてありがとうな」

「えっ?」


変に改まったことをいうので、私は驚いて彼を見上げた。しかし彼はふんわりと笑いながら私を見ているだけで。


「な、なんだい、急に…」

「…んー、別にな。なんでもないよ。ただ、なんかお前と子どもを見ていると幸せなんだ。本当に俺が守りたいものが、ここにあるって感じがさ。すごくあったかい」

「そうなんだ…」

「うん、だから俺は感謝してるよ」


なんて、へらっとする彼の目尻には涙が溜まっていた。私はその様子にふぅと息を漏らす。


「…また、泣いてるの?」

「ん………ごめ…ん…」

「別に…いいけどさ」


私は彼の腰に腕を回し、きゅうと抱きしめてみた。すると彼ははにかんで、ゆっくりと涙を拭く。私はまたかぁなんて、内心笑っていた。


幸次郎は結婚式以降、涙腺が緩みに緩んだ。それはもう何をしても、何が起こっても泣くほどに。子どもを授かったといったときは、脱水症状で死ぬんじゃないかと思ったほどだ。


「幸次郎、」

「ん…」

「子どもが見てるよ」

「えっ」


これを言えば離れるかな、なんて思っていたけど甘かった。幸次郎はもうちょっと、と言わんばかりに擦り寄ってきて。


「うわっ」


私は髪の毛のくすぐったさに堪えられず、すてんと尻餅をついてしまった。すると幸次郎は今かとばかりに、じゃれてくる。


「や、やめて…!」


脇腹をくすぐられながら笑っていたら、ベビーベッドからもキャッキャッと笑い声が聞こえた。その声に私と幸次郎は顔を見合わせて、


「「かわいい…」」


と声を揃えた。

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