「みかん、剥いてくれないか?」

「えー…、しっかたないなぁ…」


そう言って、みかんを手にとる様子を、幸次郎はニコニコと笑いながら見ていた。何がそんなに嬉しいんだか…、なんて私はぶつくさ思いながら、みかんを剥いていく。薄皮まで綺麗に剥がしたところで、よしっと納得して幸次郎に返した。


「綺麗だな」

「ん?」

「なまえは丁寧にみかんを剥いてくれる。凄く綺麗に」

「うーん、そうかなぁ。特に意識したことはなかったけど」

「…いや、とっても綺麗だ。昔から変わらないよ」


昔から変わらない?意味がよく分からなかったけれど、幸次郎が嬉しそうだったので聞かないでおいた。


「なまえ、もう一個剥いてくれ」

「えー…、自分でやりなよ」

「もう一個だけ、な?」


こてんと頭をこたつの天板に投げ出して、上目使いでお願いしてくる幸次郎は仔犬みたいでとても可愛い。ついついヨシヨシと撫でたくなる。


「じゃあもう一つだけね」

「うん」


なんだか今日はまったりと暖かいからなぁ。幸次郎も甘えたくなるのかなぁと、ぼんやりしながらみかんを剥いていく。幸次郎はそんな指の動きをとろりとした目つきで見つめていた。


「はい、幸次郎。出来たよ」


なんて渡す頃には幸次郎の意識はどこかへ飛んで行ったらしい。すーすー、と可愛らしい寝息をたてて、眠ってしまっていた。


「もう…欲しいと言ったのは君の方だぞ」


溜め息をついてから、幸次郎が口の周りにつけっぱなしにしているみかんの粒をつまんでやった。それを静かに口元に運べば、むぐまぐと日本語じゃない何かを発しながら食べていたので、面白くて笑った。


「このまま…」


このまま、こんなふうに歳を取っていけたらなぁ、なんて思っている自分に驚いた。そんなことを考えてしまうことが、歳を取ったという証拠なのか。ちょびっと何処かに焦燥感に似たものを感じる昼間だった。










「へぇ、なまえはそんなところに惹かれるんだ!」

「う、うん。ところで、君はいつうちに来たんだい?」


へらっとごまかすようにフィディオは笑うと、幸次郎がしたみたいにこてんと頭を投げ出した。


「久しぶりのバケーションに、会いにきちゃあ悪いのかい?」

「いや、悪くはないよ。悪くは無いけどさぁ。勿体ないよ、わざわざうちに来るなんて。円堂くんのところとか、色々とあるだろうに」


すると彼は、綺麗な瞳を隠すように微笑んで、君にはそれだけの価値があるんだよ。と気障な台詞を吐き出した。


「ふーん…」

「ふーんって…それだけ?」

「い、いや…嬉しいよ。ありがとう」


マークの時もそうだが、こういうことを言われ慣れていないから、反応に凄く困るだけ。なんだかそわそわしながら、ちらっとフィディオを見たら、くーっと寝息を立てていた。


「なにそれ、幸次郎のマネ?」


はは、と吹き出すほど二人は似ていた。ほっぺたにみかんの粒を付けているところまでそっくりだ。ほら、と粒をとって、口元に運んでやれば無意識に食べる…はずだった。が、彼は違った。


「ぎゃあ!」


彼はぱくりと、私の指ごと食べたのだ。びっくりして動けないでいると、彼が舌を動かすので急いで引き抜く。


「な、なな、何を…!」

「ふふ、なまえは本当にシャイだね」


フィディオは楽しそうにそう言いながら、私を撫でてきた。きっと君が大胆なんだよ、なんて言葉は飲み込まれてしまった。

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