「なまえ、明日から暇か?」

「場合によっては、暇です」


放課後、教室に残っていて、かけられた声だった。声の主は、にやりと笑う鬼道くん。その後ろには、佐久間くんと幸次郎が立っていた。


「なら、暇ってことにしろ」

「うわ、パワーハラスメントだ」

「人聞きの悪いことをいうな。これは命令だ」

「…それをパワハラと呼ぶんだよ」

「そういうなよ、なまえ…」


慌てた佐久間くんがフォローに入る。幸次郎はぽけっとしているばかりだった。


「とにかくな、お前は今晩から源田の家に泊まり込め」

「はぁ?いみ…」

「まぁ最後まで聞け。源田の家はな、今晩から両親が出掛けてしまうんだ。だから世話をする人間が必要になる」

「ばか?こどもじゃないんだから、それくらい…」

「源田を侮るなよ」


鬼道くんが声色を変えて言うものだから、少し驚いた。佐久間くんを見ると、うんうんと頷いている。


「いいか、なまえ。源田はな、サッカー馬鹿だ」

「知ってるよ。それは君らもでしょ」

「………ごほん。俺たちと違うのはな、源田はサッカー以外も馬鹿なんだ」

「…んなわけあるかい」


有り得ないと思った。勉強もできて、みんなに頼られている幸次郎が?ちらりと幸次郎の顔を見ると、にこりと微笑まれた。


「とにかく、源田を頼むぞ」

「えっ、ちょっ…、待ってよ!」


鬼道くんと佐久間くんは疾風のように消えてしまう。残された問題の彼を見ると、


「よろしくな」


と言われた。なんだか大変なことになってしまったようだ。今晩は彼の家で夜を明かすことになるのか。親に電話をしたら、すでに事情を知っているようで、しっかりね!とだけ伝えられた。

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