「なまえ、怖いテレビやっているぞ」

「あー、はいはい。大人しく見ててねー」


カチャカチャとお皿を洗いながら、適当に返事をする。なにかこう、いらいらする。さっき皿洗いくらい出来るだろうと、任せたのが間違いだった。短時間中に、彼は五枚中三枚を割ってみせたからだ。


「何やってるの、幸次郎!握力があるでしょう?ちゃんと持ちなさい!」

「違う、…その、ちゃんと持ったら、割れた」


鬼のような握力には、さすがの私もお手上げで。黙ってテレビを観ているようにいいつけた。


「なまえ、一緒に観ないか?」

「怖いのはいい。そんなの観て、夜寝られなくなってもしらないからね」


小言ともとれるそれを言って、洗濯物を洗いに行く。ちらりと見えた彼の背中が、少し淋しそうに見えた。










「おやすみ。明日も早いんでしょう?おにぎり握ってあげたから、それ食べてね」

「ん、ありがとう」


ばいばいと幸次郎は手を振って、自分の部屋に入っていった。私も部屋に入り、息を吐く。どっとのしかかるような疲れに、倒れ込むように眠りについた。





「…なまえ」

「………」

「一緒に、寝ていいか」

「………んあ?」


はっきりしない頭でドアを見ると、幸次郎が枕を持って立っていた。ぼーっと見ていると、そろそろ裾を引きながら近づいてくるのが朧げだが確認できて。ぎしっとスプリングが軋む音で、やっと目が覚めた。


「だっ、だめだめだめ!なにを言い出すの!」

「…駄目か?」

「だめ!仮にも私たちは男女なんだ。急にどうして…」

「………怖い」

「な、なんて?」

「ひとりじゃ、怖い。さっきの、テレビ…」


呆れて声も出なかった。情けないような、頼りないような彼に、ため息をこぼす。


「…わかった、ただしお互い背中を向けること。あと変な気にならないでね」


結局、私が折れる。すると、彼は顔をほころばせた。


「ありがとう、なまえ」


もぞもぞと潜り込んでくる気配。私は少し身を強張らせたけれど、彼は大人しく約束に従っていた。


「…おやすみ」


数分後には、彼の寝息が部屋に響いた。かくいう私は、変にドキドキして寝られない。彼の固い背中から伝わる体温に、真っ赤になる顔。ん…、と彼が零す吐息にすら、どきりとした。


「………わっ」


びくっと心臓が高鳴った。彼が寝返りをうったのだ。今まで以上に体がくっつき、彼の腕が私の上を経由している。耳には生温い息がかかっていた。


「こ、幸次郎…」


ぐるぐると頭が回る。低い唸りのような声も聞こえた。私は恐怖やらなにやらで、ぎゅっとシーツを握るしかなく、気がつけばいつの間に寝ていたのだろう、朝になっていた。隣に彼はいない。早朝ランニングに行ったらしい。夜を思い出せば赤くなる頬に、羞恥を覚えながら瞳を閉じると、雷のような爆発音がした。


「なまえっ!アルミホイルを電子レンジに入れたら火花がでて爆発した!」


焦ってドアを開く彼に、涙が出た。電子レンジは啓くんに頼んでみたけれど、修復不能、被害甚大。といわれた。

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