『Genba Koujirou』



「………なにこれ」

「源田の英語のプリントだ」

「いや、でも、おかしいよね、これ」

「あぁそうだろう?」


鬼道くんは眉をしかめてプリントを畳んだ。佐久間くんもその様子を、微かに震えながら見つめている。変に静まりかえった教室で、やっと鬼道くんが口を開いた。


「げん…ば、こうじろう…」


静かに彼は呟く。すると、反対に佐久間くんの震えが強くなった。


「げんばこうじ、…ろう…」


二度目の呟きに、ついに佐久間くんが吹き出した。つられて私も吹き出す。


「きっ、鬼道さん!二回も言わないでくださいよ!卑怯じゃないですか!」

「卑怯などでは、ない」

「佐久間くんが笑うのが、いけないよ!」

「お、俺かよ!」


くつくつと彼らは笑った。私も笑いの波が治まるまで、しばらくお腹を押さえることになり。三人の、少し引いた笑いが教室に響いた。


「さて、どうしてこんなことになったのか、説明しようか…」


ふー、と鬼道くんが一息ついた。私と佐久間くんも涙を拭いて、一息つく。久しぶりにお腹が痛くなるほど笑った。


「残念ながら、源田はな、bとdの区別がつかないようなんだ」

「えぇ…?それで今まで生きてきたの?よくテスト受けられたね…」

「なまえ、俺らのテストはマークシートっていうのを忘れたのか?」

「あぁ、しかも源田は今でも鉛筆を転がしている」

「だから今まで気がつかなかったわけね…」

「しかも見ろ、この解答…」


次に鬼道くんが取り出したプリントは国語だった。そして、彼が指したところは漢字の読みがなの問題で。『地球』はなんと読むかを問われていた。


「…幸次郎、国語苦手だからなぁ」

「まったくその通りだ」


彼の言葉に、幸次郎の答えを見ると、『地球』と書いて『ホシ』と読んでいた。


「ちゅ、中二だ…」

「だろ?そんな答え、辺見ですら書かないぜ?」

「辺見くんですら!?」


これは重症だと思った。帝国のキングオブ中二である辺見くんを超えるなんて…。サーっと血の気が引いた。


「まぁ、源田は辺見に教わったことを、素直に書いたんだろうな。辺見がこれを見て、腹を抱えていた」

「あ、あのやろう…!」

「なまえ!お、落ち着けって!」

「そうだ、なまえ。これでも見て、落ち着け」

「っぶ!」

「え?ちょ、ぶふっ!鬼道さん!英語は反則ですって!」

「反則などでは、ない」


また三人で笑ったが、さすがに慣れもあったのか、しばらくすると、はぁ…と三人のため息が重なった。そんなときに幸次郎が教室に入ってくる。


「遅れてすまない!今、近くの通りで工事をしていて…」


その言葉に三人とも吹き出した。










「なんだそれは、きちんと教えてやったのか?」

「教えたよー。しばらくはてなマーク、出してたけどね」


スーパーのカゴをほらと豪炎寺くんに渡され、それを受け取る。ふーんと答えながら、ばっさとチラシを広げる豪炎寺くんは、やっと最近になって見慣れた感じになった。始めこそ何回、どんだけ似合わないんだ…と思ったことか。


「今日は…、卵が安いな…」

「本当?じゃあ買わないとね」

「そうだな、最初に向かうか…」

「わかった」


豪炎寺、くん…?ふと、頭の中で豪炎寺くんの名前がローマ字に変換された。


(豪炎寺は…、Gouenjiだから…。…………ちっ、何も面白くないな…)


残念だなぁと思いながら、ぼーっと歩いていると、豪炎寺くんの背中にぶつかった。


「ふぎゃっ!…いたた、どうして立ち止まるんだ」

「なまえ。今、俺の名前が面白くならないかなーとか、考えてたろ」

「ぎ、ぎくっ」

「バレバレなんだよ、お前はな…」


右手でこつんと額を弾かれる。なんだか恥ずかしくて、顔を真っ赤にしていると、豪炎寺くんは優しく微笑んだ。


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