「なまえ、」

「なぁに?」

「赤ちゃんってどうやって作るんだ?」

「げほ!」


ごふっと何かが喉につっかえた。どうして急にそんなことをと聞けば、「辺見に聞いたら教えてくれなかったんだ。なまえに聞けって言われた」と答える。辺見コノヤロウ…!後で会ったらデコに肉マークを描いてやると決意をした。


「えーっと…、まず赤ちゃんっていうのはね…」

「うん」

「その…」

「あぁ」

「な、なんだろ…」


あぁ困った。どう答えたものか。久しぶりに返答に困る質問をされ、うーんうーんと唸っていると、幸次郎は私の顔を覗きこんできた。


「なまえ、そんなに赤ん坊を作るのは難しいのか?」

「あー、いや、どうだろう」

「…俺、難しいのは嫌いだ。やっぱりいいよ」


そう言って笑う幸次郎だったけれど。一つだけ伝えたいことがあった。


「待った」

「ん?」

「難しいのは赤ちゃんを作ることじゃないんだよ、幸次郎。簡単なんだ、そんなこと。ただね、大切なことは、本当に難しいのは、…相手の気持ちを考えるってことなんだ」

「なまえ…」

「君にそれが理解できたら、必然的に分かるはずだよ。何が難しくて、何が易しいのか」


幸次郎は首を傾げることはしなかった。私の目を見て、ただ頷く。私の伝えたいこと、伝わっただろうか。私は彼の真剣な瞳に、どこか安堵した。










「なまえ、そんなに遠回しに言わなくてもいいんじゃないか?」

「うげ、レオンくん…」

「聞いていたよ、君たちの話」


ふふ、と彼はキザに笑った。幸次郎は急な彼の登場に、ぽかんと口を開けたままだ。


「君の言いたいことは分かるけどね。回りくどい言い方は良くないよ。言いたいことは、はっきり言わないと」


いや、君の話し方の方が回りくどいよ。なんてことは言えないまま、レオンくんは幸次郎の手を取った。


「ちょっと!?幸次郎になるするの!」

「いや?僕からちょっとしたコツを教えてあげようと思ってね…」

「やめてくれないか!余計な知識を吸収させないでよね!」


そう言っても、レオンくんは聞く耳持たずといった感じで、幸次郎に耳打ちしていた。数秒だけだったけれど、レオンくんは満足気に手を離し、去っていく。「それじゃあ頑張って」という言葉を残して。私はすぐに幸次郎に近付き、問い詰めた。


「一体なにを、聞いたんだい?」

「んー、よくわからないけどな…。まずは手を繋ぐところからって言われた」

「はぁ?」

「でも俺、そんなこと恥ずかしくてできないよ。それに、なまえは側にいてくれるだけで嬉しいから。…それで十分だ」

「あああ、あ、そう…」


なんだい、それ。いつもくっついてくるくせに。変に意識するから、さぁ…、なんてぶつぶつ思ったけれど。本当はちょっとだけ嬉しかった。本当にちょっとだけだけど。レオンくんには、あとでばーかばーかと送っておいた。

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