「幸次郎、ちょっと自転車貸してね」

「あぁいいぞ。…何処へ行くんだ?」

「郵便出しにポストだよ、待っててね」


そう言って靴を履いていると、いつの間にか幸次郎が後ろに立っていた。


「う、うわ、びっくりした!どうしたの?」

「俺も行く」

「なに言ってるの。一人で大丈夫だから、君は待っていて?」

「ダメだ、寂しいだろう」

「………は?」

「寂しい」


何が寂しいだ。いつも一人で待ってるくせに。どうして今更そんなことをと、聞いてみた。


「いつもは黙って置いて行くからだ。寂しかったんだぞ。寂しくて失神したこともある。だから今日はついて行く」


あぁ…、まぁ確かに。私はいつも黙って出かける。すぐに戻ってくるつもりだし、別に言うまでもないと思っていたからだ。でもその度に失神されては堪らない。というかこの前倒れていたのは寂しかったからなのか。情けなくて、虚しい気分になった。


「わかったよ。じゃあ、私は他の自転車を使うから、幸次郎は自分のを使ってね」

「ダメだ」

「あぁもう、何が?」


このやりとりには疲れた。だんだんイライラしてくる自分を抑えながら、幸次郎を見ると、やけにもじもじといった様子だ。不思議に思い、どうしたのと聞く。


「あ、あのな、俺…」

「俺?」

「自転車、乗れないんだ」


………あ、そう。まぁ仕方がないことじゃあないのかなと思って彼の自転車を見たら、しっかりと補助輪がついていた。切なそうな瞳の彼を置いて行くわけにもいかず、二人で歩いてポストへ向かう。幸次郎は満足そうに一歩一歩、歩いていた。










けれどその一本道で、彼は三回こけてみせた。一回目は石で、二回目はバナナで、そして三回目は何もないところで。その度に目を潤める幸次郎を見て、だから連れて来たくなかったのに、とため息がでた。


「ははは。ダサいね、君」


そんな幸次郎を引っ張って起こしていると、笑い声が聞こえてきた。誰だ誰だと、その声に目を向けると、木戸川の女川くんが立っていて。腕を組み首を傾げて、こちらを見下していた。


「な、なにかな、女川くん…」

「なまえ、お前はこんなだっさいヤツとつるんでんのか?そんなヤツより、俺とショップに行こう」

「いやそれよりポストのほ…」

「ふ、言わなくとも分かるよ。今日のファッションのポイントは、赤縁眼鏡だ。似合ってるといいたいのだろう」


ふふふと女川くんは笑う。私は赤い眼鏡より、赤い郵便ポストを目指したいのだが。厄介な人に捕まったと、再びため息が出た。


「なまえ、」

「なに幸次郎」

「あの男…」

「あ、あんまり話をややこしくしないでね…?」

「タグが付いたままだ」

「えっ?」


その言葉に、ちらりと女川くんをみると、確かにジャケットに値段のタグが付いたままである。ここはスルーするべきか、指摘するべきか。こそこそ二人で相談していると、さすがに女川くんも気がついた。


「何処を見てい………、!!こっ、これは!」

「…女川くん」

「ち、違う!わざとだこれは!い、今、流行って…」


プライドが高い女川くんの心中は、察しきれない。そしたら幸次郎がニヒルな笑みで言うのだ。


「はは、可愛いなー、お前」


かー――っと赤くなる女川くんは、覚えてろよ!とお決まりの台詞をはいて消えた。久しぶりに幸次郎をカッコイイなと思えた。でもそのあと、四回五回と彼は順調に記録を更新していったので、前言撤回だなぁと頭を抱えた。


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