「幸次郎、プロテインと炭酸飲料買ってきてみたんだけど、飲む?」

「おー」


珍しくそういうものを買ってみてあげた。安くなっていたからなんて、口が裂けてもいえないなぁなんて考えながら、彼を見る。そしたらさっそくプロテインに興味津々だった。


「これ、初めて見るな。おいしいのか?」

「えっ?飲んだことないの?」


聞けば、中学生にはまだプロテインは早いと、鬼道が止めているんだと彼は言った。はぁなるほどと納得した私が、止める?と聞いてみたら、


「いや、一回飲んでみたかったんだ」


と彼は嬉しそうに言った。水に溶かし、混ぜこんで。見た目にしてはあんまり美味しそうとは言えなかったけれど、健康には良さそうだった。


「じゃあ、いただくな」


乾杯の動作をしてから、彼はぐいっと一気に流し込んだ。もごもごと口で動かして飲み干す。私は変に期待して、急かすように感想を聞こうとした。


「どう、幸次郎?どんな感じ?」

「………」

「幸次郎…?」

「………ま、まずい」


うぇぇと幸次郎は舌を出した。あんまり苦しそうだから、慌てて近くにあった炭酸飲料を開けて差し出す。すると彼は受けとって、あろうことか再び流し込んだ。


「うわ、幸次郎!それ炭酸!」

「………!」


喉がちくちくする!と目で言われても、私にはなす術がない。ひたすら彼がじたばたするのを見守るしかなかった。










「なまえ…ひどいぞ…」

「ご、ごめんね」


しばらくして、彼は潤んだ瞳で私を見た。本当に申し訳なくて、今日は幸次郎の好きなおかず作ってあげると言えば、彼は急に笑顔になって、ハンバーグ!と答える。それ以来、幸次郎は炭酸もプロテインにも、興味を示さなくなったけれど、まぁ、好き嫌いとは別だよねと、私は自分に言い聞かせるようにした。そしてその日の晩御飯の途中、あ、俺、元々炭酸飲めないんだった!と彼は思い出したように言った。










「在手くん。君、炭酸とか飲んだことないでしょう?これあげるから、世宇子の皆と飲んでよ」


そういったら、世宇子中の在手くん、つまりアルテミスは頷いた。私はよかったと一息ついて、箱に入った炭酸飲料をよいしょと手渡す。プロテインは商店街の備流田さんにあげたし、残りはこれだけだったので、安心した。これ、飲んでみてもいい?と彼がついついと突くので、もちろんと一つ出してあげると、嬉しそうに受けとった。


「あー、ちくちくするから気をつけてね」


同じ地雷を踏ませまいと、私は忠告するのを忘れなかった。プシッと缶を開け、期待に胸を膨らませながら口元へ持って行く彼。そこで、なにやらカンッと音がした。


「あ、あの、在手くん…」

カンッ
カンッカンッ

「ちょ、ちょっといいかな…」

カンッカンッカンッカンッ

「き、君さ、仮面外しなよ…」

カンッ


そう提言したら、彼の耳がみるみるうちに赤くなった。どうしてこう私は揚げ足を取るようなことしかできないんだろうと、虚しくなりながら在手くんの仮面を外すのを手伝った。

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