ガサ。


人は嫌いなものほど早く見つけると、何処かの誰かが言っていたが、今がまさに、それだった。


「ひうっ…」


もうこの時点で気配は感じていたが、振り向きたくない。けれどこのままでは大変な事態になってしまうことは明らかだ。


「ち、違いますように…」


微かな願いを呟いて、一気に振り返る。するとそこにはヤツがいた。


「〜〜〜っ!」


言葉にならない言葉が胸をつく。いっそ可愛く叫べたらと思うのだが、残念ながら私にはそんなスキルはない。


「…なまえ?ど、どうしたんだ」

「こ、幸次郎ぉ…」


本気で涙目なり始めたころ、救世主と呼ぶべき者が現れた。彼は私の異変にいち早く気がつき、近づいて来てくれて。黒光りするあいつを倒して欲しいと、私は目で訴えた。


「大丈夫か、なまえ。どうしたんだ?」

「こ、こじ、こじこじ…」

「幸次郎だ、なまえ」

「幸次郎…、あ、あれ…」


ん?と幸次郎がヤツに目を向ける。そしてヤツと幸次郎の目が合った瞬間、幸次郎は固まった。


「ひ、ひぐっ…」

「…え?幸次郎、なに今の声」


みるみるうちに青ざめていく顔。だらだらと冷や汗までかいて。まさか、幸次郎、君は…。


「お、俺…ゴキブリとか…物凄く苦手なんだが…」


や、やっぱり。万事休すとはこのことか。幸次郎が一歩後ずさると、ヤツは行動を開始した。


カサカサカサカサカサカサ。


「いやぁぁぁぁぁあ!」
「うわぁぁぁぁぁあ!」


渾身の力で私たちは抱き合った。あわわあわわと涙を流して混乱していると、幸次郎はひょいと私を担いで駆け出す。ヤツを飛び越え、キッチンから飛び出て、玄関から這い出す。残念なことに、私たちは公道の真ん中で昼間っからわんわん泣いた。










「何してるの?」

「うぅ、黒上くん…」


しばらくの間、ぐずぐず言っていると、尾刈斗中の黒上くんが通りかかった。私は幸次郎をぺいっと塀の裏に隠しながら(これでも厳格なる帝国学園のゴールキーパーだからだ)、ヤツの話をした。


「へぇ…。その子、僕が貰ってもいいかなぁ…」

「は?」

「んー、ちょっとね。黒魔術のいけに…けふんけふん。…とにかく、要らないのなら頂くよ」


そう言うと、彼は家に入って行った。数分後出てきた彼の服の下から、やけにカサカサ聞こえてきたけれど、気にしたら負けかなぁと思った。幸次郎はしばらくの間、一人になることを嫌がった。


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