「あ…中谷!UFOだ!」 「ま、まじか!」 「まじだよ!ほら、あっち!」 空野が指差す方向に、中谷はなんの疑いもせずに振り向いた。もちろんそこにはUFOなんていう、神秘に満ち溢れた存在なんてあるはずがなく。ただ日常的な晴天が広がっていた。 「お、お、おまっ…お前!ま、また騙したな!」 「んー、あれ?UFO行っちゃったみたいだなぁ…。ざんねん、中谷くん。チャンスはまたあるさ」 ふぅと、わざとらしく空野はため息を付いて見せた。わなわなと肩を震わせる中谷のことなんてお構いなしだ。なまえはさすがに可哀相だと思ったのか、中谷の肩に手を置いて慰め、空野にはやり過ぎだと注意をした。 「でもな、なまえ。中谷って騙されやすいんだぜ?今から俺がこうやってからかっておかないと、将来的にどうなるか。心配してんだよ」 「心配してるから、からかうなんて。なんだか矛盾していないか?」 「そんなことない。俺はホモだから、中谷のことが気になって…」 「へぇ…なるほど…」 「………」 「ふむ」 「…い、いや!冗談だからね!今の」 珍しく空野は焦った様子でなまえを制した。あの空野をここまでにするなんて、すごいなぁと中谷はいつも感心していて。こんなふうになりたいな、なんてどこか憧れすら抱いていた。 「なまえ。俺、お前みたいになりたい」 「えっ?」 「お前みたいに、人を上手く扱える人間になりたい。どうしたらなれるだろう」 「さ、さぁ…」 「そうかぁ…うーん…。とりあえず、なまえをもっと好きになる。人間不信のままじゃあ、なれるもんもなれないもんな」 そう宣言して、にこっと中谷は笑った。なまえは恥ずかしそうに、中谷の人間不信を直せるなら協力するよ。なんでも言ってねと、中谷を後押しする。そんな様子を見ていた空野は、内心ため息を付いていた。 「おー!頑張れ!中谷!とりあえず、ほっぺにごはんつぶ付いてるぞ?」 「えっ…!ど、どこ!」 「………はは、うそ!」 表面上では、クツクツと笑う自分。でも、そんな自分を信じられないと呆れるなまえと、そのなまえに慰められる中谷を見て、本当は羨ましいと思っていた。中谷は素直だから騙されやすい。でも、素直だからこそ、好かれやすい。なまえだってそうだ。中谷のそんなところに惹かれるのだと、空野は思っていた。自分も中谷みたいな素直な人間になれたらなぁなんて、本当は憧れていた。 「なまえちゃん。中谷ばっかりずるいぞー!俺にも構ってよ、寂しいな…」 「嘘ばっかり。中谷、騙されちゃいけないよ。空野は嘘つきなんだから」 うん、と頷く中谷。本当に素直だ。空野は敵わないなぁとばかりに、ひらひらと手を振った。 「なぁ、空野はどうしてそんなに中谷を虐めるんだい?酷いと思わないのか?」 「うーん。たまに、思う…かな」 「なら、どうし…」 「はは、うっそー。思わねーよ、面白いもん」 「あ、あんたって人は…」 にやりと笑う空野に、なまえはどきりとした。まぁ元は整った顔をしているのだし、黙っていればいい男なのになぁとなまえは思った。飄々と生きて、ひらりひらりと人をかわす。でも人には嫌われない。中谷だって、本心は嫌いだなんて思ってはいないのだろう。それはもはや天性と言うべき。この自分に正直な性格が、なまえは好きだった。いや、好きというか憧れか。 「私はあんたが羨ましいよ」 そうなまえが言ったら、空野は頭にぽんと手を置いた。 すれ違うように生き続け、持たざるものを欲しがって。本当に人間らしい生き方をする三人が、交差するのはどこなのだろう。それはきっと目の前。誰かが自分の個性という言葉に目を向けたその瞬間だ。 |