「オラ、行くぞ」

「いて」


明王は私の足をガッと蹴った。いつもそうだ。何をするにも、何をなすにも、彼は私を小突いてくる。道をどいて欲しいなら、口で言えばいい。それなのに、彼は私の肩にわざとぶつかり邪魔だと言う。静かにして欲しいなら、口で伝えればいい。それなのに、彼は私の頭をはたき黙れと言う。私は彼が好きで付き合っているけれど、彼のそういうところは大嫌いだった。


「買いてぇもんは決まったのかよ」

「あ、うん」

「じゃあ早く買ってきやがれ。とれぇんだよ、お前は」


そういってまた足を蹴る。私はムッとして、早足にレジへ向かった。










「合計で546円になります」

「あ、はい…」


じゃらじゃらと財布から小銭を出して、支払う。店員さんはそれを確認して、丁度ですねと微笑んだ。そうして、彼女が品物を袋に入れている間に、彼は寄ってきた。


「お待たせ致しました」

「どうも」

「邪魔だ、どけ」

「…ちょ」


どんと体で押され、私はよろけた。店員さんに向けて伸ばした手は空を切り、代わりに彼が袋を受け取る。


「あっ明王、」

「あんだよ」

「私が持つよ」

「………、うっせ」


めんどくさそうに彼は耳をかくと、スタスタと歩き出した。他の店でもそうだ。彼は私の代わりに荷物を持った。私がいいよ、と遠慮するたび、彼は「うっせぇ」とぼやくのだ。


「明王、悪いよ」

「うっせーうっせー」

「明王…」


両腕に私の荷物を抱えながら、彼は家に向かって歩き出した。私が申し訳なくて、半歩あとを付いていくと彼が急に立ち止まる。


「いてっ」

「………」

「あ、明王…?」

「…おめーはまともに歩けすらしねーのかよ。マジでとれぇやつ」


彼はどこか苛々した様子で呟くと、荷物を片手に持ち替えて、空いた手を私の目の前に差し出してきた。


「え」

「………」

「い、いいの?」

「こんなに荷物を持ってんだ。荷物が一つ増えようが変わんねぇよ」

「明王…」


どこか顔を赤らめる彼に、ふふ、と笑いが込み上げてきた。その手を握ると少しあったかくて。


「明王の手、あったかい」

「………そうかよ」


彼も少し微笑んだ。私は彼が意地悪なんじゃなくて、不器用なんだなぁと、気がついた。それからは少し、優しくなれた。
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