「叶わない恋なんてないんですよ」 彼は空を見上げながら呟いた。そんなロマンチック?とも言える言葉をあの博之が吐くなんて面白くて。ふふふ、と笑うと彼はムッとした。 「なにか変ですか?」 「いーや。…言っても、博之には解らないことだよ」 「…そうですか」 「ん」 「…また子ども扱いするんですね」 「…はは、」 別にそんなことはないよと言ったものの、そうかもしれないなぁとうっすら思った。それを察してか、彼は会話を止めて、また空を見上げる。それによって流れた沈黙に耐え切れず、私は思わず口を開いた。 「…止まないね、雨」 「そうですね」 「…寒いね」 「そうですか」 「…早く止むといいね」 「はい」 なんだこの感情のない会話は。そこまで私は彼を傷つけただろうか。不安になって、彼を見ると、少し微笑んでいた。 「ひろ、」 「どうかしましたか?」 「…い、いや」 「なんですか?おかしな人ですね」 そう言って彼が笑うと、ふわりと風が吹いた。しばらくして、彼がじゃあいきましょうかなんて私を誘うから、私は喜んで返事をする。そうして握った彼の手が、死人のように冷たくて。 「うわ、博之の手は死んだ人みたいだね」 「クク、いまから貴女もそうなりますよ」 「お揃いか、…いいなぁ」 「…そうですね」 そうしてそのままゆっくりと、誘われるように暗い海へ向かう。冷たい雨に当たっていたせいか、不思議と冷たくはなかった。 「…なまえ、また来世で逢いましょう」 彼の言葉に頷くと、静かに唇が合わさった。兄弟として生まれてこなければ良かったのにな。遠くなる意識の中、ぼんやりと考えた。 |