「紫電」 「なんだ」 「今度、その…」 紫電の鋭い目に、私は思わず口ごもった。どうして彼は、こうも大人っぽいのだろう。私以外の人間には、年下だろうと同年代だろうと関係なく敬語で話す。どうしてだと聞いたら、ただの癖だと言った。 「どうした、用があるなら早く言え」 「…あっ、えーっと」 「えっと?」 「その、」 言葉を探しても見つからない。私は一体何を彼に話したくて話し掛けたのだろうか。今度、なんて発したものの、それ以外の言葉なんて考えてすらいなかった。 「………やっぱり、なんでもない」 「は?」 「なんでもない」 えへへと笑って、場をごまかす。すると彼は顔をしかめて、なんだよ全く。と答えた。私はなんだか悲しくて、俯いた。 ああそうだ。 好き、だなんて言えるはずがない。彼は特別な人だから。頭も良くて、運動もできて。私なんかとは釣り合うはずがない。この気持ちは消えてしまうべきなのだ。 「……なぁ、なまえ」 しばらくそのままでいると、彼は静かに口を開いた。私は内心驚きながらも、俯いたまま頷く。 「……あ、のさ、…べ、別に引け目を感じる必要は、ない、からな」 「は?」 「……お、俺が好きなのは、」 彼はそう言うと、恥ずかしそうに白い頬を染めた。私に対して敬語を使わないのは、俺にとって君が特別なんだと、彼は静かに続けた。 |