「小手川ってなんでいっつも手袋してるの?」

「な、なんだっていいだろ!感覚が狂うんだよ、感覚が!」


ちょっと聞いただけなのに、彼は何故か赤くなってわぁわぁと喚いていた。変な小手川だなぁと思いながら、ふーんと流すと安心したように息をつくので、ますます怪しいなぁと思った。


「やっぱり気になるんだけど、どうして手袋し…」

「だぁぁぁ!もういいだろ、それは!そんなことより、勉強しろ勉強!大事な受験が控えてんだろが!」

「うぅ、それを言われると痛いなぁ…」


つまんないと呟くと、キッと小手川に睨まれたので、いそいそと机に向かう。待ち受けていたのはそれこそ面白くない勉強たちだった。もうちょっとで受験だといっても、面白くないものは面白くない。先に推薦入試で受かった勉強大好き小手川に、それを言っても無駄だろうが。


「ほらほら、手を動かせ、手を」

「はいはい…」


口うるさい小手川だけど、この喝があるから集中できるのかなと思った。ただひたすらにペンを動かすだけの状況が、少し救われた気になった。










「遂に明日だな、なまえ」

「うん、そだねー」

「そだねーって、お前なぁ…。少しは緊張感を持て」


小手川は気が抜けたように笑うと、私の頭を撫でる。心地よくて黙って雰囲気を感じていると、小手川はうーあーと変な声を出した。


「ど、どうしたの?」

「あー、えー、その。あのな、」

「う、うん…」

「俺、さ。作ったんだよ、その…おま、おま、お守り…」


かーっと小手川の顔が赤くなる。私にいたっては、不意な言葉にびっくりして、ただ立ちすくんでいた。


「お守り、作ってくれたの…?」


聞けば、小手川はこくこくと頭を上下に振る。そうして差し出された手の平には、不格好なフェルトのお守りが乗っかっていた。


「わ、本当に作ってくれたんだ…」

「ちょ、ちょっと格好悪いけど、頑張って作ったから…」


ごもごもと彼は口ごもった。そのお守りを受け取ると、彼はすぐに手を引っ込めて言うのだ。


「頑張れよ。俺、応援してるから。辛くなったら俺を思い出せ。一緒に戦ってるからな」


ぐっとガッツポーズを決める彼の、手袋の下がどうなっているのか、今、理解した。


「ありがとう、小手川…」


彼が身を犠牲にしてまで作ってくれたお守り。手袋の下の絆創膏たちはきっと私の支えとなり、ずっと見守ってくれるのだろう。
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