「辛い、もう無理、止めたいよ…」

「…諦めるな。もう、少しだ」


火山は、私より数歩先で足を止めた。その表情からは読めないが、心底呆れ返っているに違いない。こんなことなら、登山なんかにくるんじゃあなかった。歩くのは疲れるし、いつになったら終わるのかわからないし。何より火山に迷惑をかけているのが嫌だ。いくら誘われた身とはいえ、火山だけならもう山頂に着いていただろう。盛大なため息と共に俯くと、目の前に手の平が見えた。


「荷物、俺が持つから。もうちょっと頑張ろうな」

「えっ、悪いよ…」


遠慮する前に、火山は私のリュックを肩に担いだ。申し訳なくて声をかけようと思ったけれど、歩くのが早くて追いつけなくなってしまった。


「ひ、火山…待っ…て…」


段々小さくなる、火山の背中。私は子供のように、置いていかれることに切なさを覚えていた。追い掛けても追い掛けても、追いつけないことがこんなに苦しいなんて。泣き出しそうになりながら、懸命に歩いた。


「ま、待ってよ…火山…」


ぜぇぜぇと喉が痛い。ずきずきと足が軋む。気がついたら立ち止まっていて、火山の姿を見失っていた。それに気がついた時、足元が崩れ落ちるような不安に襲われて。胸が痛くて、その場にしゃがみ込んだ。


「…火山、」


怖くて、悲しくて、火山が私に呆れて置いて行ってしまったのかと思って。情けないけれど、涙がこぼれた。


「うぅ…火山…」

「………なまえ?」

「ひ、火山…?」


頭上の足場から、火山が覗き込むようにこちらを見ていた。その時の安心感といったらこの上なくて。抱きしめようと腕を上げたら、逆に抱きすくめられた。


「ずいぶん探したんだぞ」

「ご、ごめっ…なさ…」

「泣くなよ。今度は一緒に行こう。置いてって悪かったな」


火山は本当に申し訳なさそうに言うと、ぎゅうと腕に力を入れた。よかった、よかったとぼそぼそと呟く彼の額には、先程まで一滴もなかった汗が、きらきらとちりばめられていて。不謹慎ながらもうれしかった。





二人でみた景色は、息を飲むほどに綺麗だったけれど。綺麗だろ、なんて笑う君の笑顔の方が、私には眩しく思えた。
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