「オレさ、副会長なんだ」

「…へぇー、なんの副会長なんだい?」


そう聞くと、政池は誇らしげに胸を張った。だから随分と素晴らしい会の副会長なのかと思い、期待をする。そしたら彼は「犬の気持ちがわかる会だ」とはっきりいうものだから、がっくりと肩を落とした。


「…なんだいそれ。そんな会があるの?」

「あるさ。ちゃんと会合もしているんだぞ」

「へ、へぇー…」


マスクのせいで確かな表情はわからないが、彼の雰囲気は楽しそうだった。それに水を差すのもなんかなぁ…と思った私は、副会長である彼の実力を確かめようと考えた。


「よし、政池。いまから犬を連れて来るから会話をしてみせてくれないか?」

「それは無理だな」

「そうか!…って、えぇ?」


ずざーっと滑り込むように転んでしまった。政池はあたかも当たり前のように腕を組んで立っているものだから、わけがわからなくなって冷や汗を覚える。


「ちょ、ちょっと待った。話を元に戻そうか」

「どうした、なまえ?」

「あのさ、君は犬の気持ちがわかるんだろ?」

「もちろん」

「じゃ、じゃあなんだっていうんだ?会話はどうしてできない?」

「うーん。気持ちは分かるんだけどな、伝わらないんだよ」

「は?」

「聞くだけなんだ、オレ。だからいつも話が合わなくて、噛み付かれる」


彼が笑いながらみせてくれた腕には、確かに噛み跡が残っていて。なんだか不思議な気持ちになった。


「それって意味があるのかい?」

「あるさ、沢山の経験は身を助けるんだぞ、なまえ」

「う、うーん…?」

「例えば今現在、オレはなまえと会話ができている。一方通行じゃない、会話をな」

「そりゃそうだよ、人間同士だもの」

「うん、そうだ。人間同士だ。でもさ、お互いがお互いを分かって、会話ができるってさ、お前が思っている以上に素晴らしいことなんだぞ。世界には伝えたいのに伝わらないことも、沢山あるんだからな。分かるだろ、なまえ」


政池の一言一言は、なんだか説得力があって聞き入ってしまった。奥深くて、意味のある言葉たち。私はなんだか政池を勘違いしていたようだ。


「政池、君は凄いな」

「そんなことはない。オレは皆と繋がりたいだけだ。ワンちゃんはその第一歩だよ」

「ワンちゃん…」

「オレはな、お前とも繋がりたいんだよ、なまえ」

「なにを言ってるんだい?私たちはすでに友人じゃないか」


本当に何を言っているんだという気になった。だけど彼は真面目な顔で返すのだ。





「違う。友達としてじゃあなくて、恋人として。オレはお前が大好きなんだ。………だめかな」





君の気持ちがわかる会があったらなぁ、こんなに真っ赤になる必要が無かったのにと、私は心から思った。
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