「こんなに遅くまで残っているのは誰かと思ったら…、あなたでしたか」 放課後の教室。一人寂しく勉学に勤しんでいると、頭上から声がかかった。声に従い上を見ると、生徒会長である海皇くんが眼鏡をくいと上げるところで。その眼鏡さん特有の仕草が、非常によく似合う人だと感じ、にやりと笑うと、彼は首を傾けた。 「…どうしました?僕の顔に何かついていますか?」 「や、別に」 「そうですか。…それより、あなたはいつもこんな時間まで残っているのですか?」 「んー、まぁ。課題とか終わらせたいんだ」 「…そうですか」 ふぅと彼がため息をついた。そんな憂いた表情が新鮮で。 「君もそんな顔するんだねぇ」 「は…?」 「疲れを知らないみたいに見えたからさ」 そういうと、僕も人間ですから。と呆れた様子で彼は答えた。それもそうかぁ、なんて。話をしたことなんて滅多にないのに、くすくすとお互いに目を細め合った。 「さぁ、お話はここまでにして帰りましょう。もう遅いですし」 「そうだね、私も帰るよ」 「…あ、…」 「…は?」 彼はまた、ため息をついた。しばらく黙ったあとに、絞り出す。 「ぼ、僕が家まで送って行きますよ。夜道は危ないですからね、…そ、それに、」 ごにょごにょと彼が呟くので、続きは聞き取れなかった。帰り道、隣で彼が言ったのは、僕は緊張するとため息をついてしまうんですよ、という言葉だった。 |