「お、おい…なまえ!その目、どうしたんだよ!?」 「あぁこれ?…どうということはないよ」 なぜそんなにも宇院くんが驚いたのか。その理由は、私の目に青痣が浮かんでいたことにある。せっかく眼帯で覆っていたというのに、彼が好奇心で外してしまうからこんなことになってしまったのだ。不可抗力とはこのことか。 「な、どうってことないわけ無いだろ!?何されたんだよ!」 「あー…、殴られた、かな…」 「はぁ!?ば、ばっかじゃねぇ?誰にやられたんだよ!?」 「うん、と。…それは言えないな。私事だよ」 「なんだよ、それ…。ふざけんな…」 彼はわなわなと震え、拳をにぎりしめていた。瞳をたぎらせ、今にも襲いかかりそうで。正直、怖い。私は違う意味で震えた。 「…なまえ、いい加減にしろ。お前のことを思って言ってやってんだぞ」 「言えないよ」 「後からが怖いとかそういうのなら、安心していいから。俺がついてる。だからな…」 「無理だよ」 カッと彼の怒りが燃え上がったのが、雰囲気で分かった。今はもう、私を殴った誰かに怒りをぶつけてはいない。私自身に怒りの矛先を変えてしまった。 「あのなぁ…なまえ。俺はお前を殴ったやつを殺してやりてぇほど憎いんだ。…分かるな?だから教えろ、お前を殴ったやつの名前だ。わかるだろ?」 「わかるよ」 「だったら…」 「でも駄目だ」 「なまえ…」 「どうしても、駄目なんだ」 ふざけんな、誰の為を思ってやってると思ってんだ。お決まりの台詞と、お決まりの動作。唇が切れて血が出ても、次の瞬間には君は忘れているんだよ。実に都合のいいように出来ているね。君は私を殴った人を、殺してしまいたいと言った。ならば君は、君自身を殺してしまおうというのか。そんなことは無理な話。なぜなら君は、忘れてしまうから。自分のしたことを、全て。 「…なまえ、その血、どうしたんだ?」 歴史は繰り返し、同じ過ちを犯すのだ。 過ちの答えを示した時、君はどんな顔をするのだろう。私には怖くて出来なかった。 |