風介は物静かなので。


私はいつも彼を見ているしかなかった。淋しいし、たまに哀しくなるけれど、そのかわり得られたものも、沢山あった。

例えば、風介は雲や空が好きだった。晴天の日は、ぼーっと空を見上げて、物思いにふけっている。それに、何かに集中すると、口をぽかんと開ける癖があることもわかった。だから空を見上げるときは、口も無意識に開けている。本人も気がついていないだろうそれらのことは、私だけが知っていることで。少しでも彼の近くにいられるような気になれた。

毎日新しい発見がある中、今日の出会いは一段と興味深いものだった。彼が触る薄水色の携帯電話に、なんだか知らないけれど、可愛いストラップが付いていたのだ。クールな彼に見合わないそれは、私の目を釘付けにし、同時に羨ましいなぁと思わせる。ついつい見詰めていたら、風介が不機嫌そうな声をあげた。その声につられ、ストラップから目を離して彼を見ると、じとっという瞳と目が合った。


「………なに、」

「や…、それ…、その、ストラップ…」

「…これ」

「そう、それ。…かわいいね」

「………べつに」


いうやいなや、風介は携帯をポケットにしまい込んだ。そんなに嫌な気持ちにしてしまっただろうかと、反省しながら風介を見る。そしたら、ずいと目の前に手を差し出された。


「…なに?」

「手、」


言われるがまま手を差し出すと、ころりとストラップが転がった。それは、風介の物と同じもの。唯一違うのは、色だけだった。そう、彼のストラップは水色だったけれど、こちらは薄い赤色。俗にいう、色違いというやつだ。


「…欲しいのなら、あげる」

「え?…い、いいの?」

「二つも要らない」


それだけ言うと、彼はぷいと向こうを見てしまった。翌日、さっそくストラップを付けて風介を探す。するとちょうど風介と晴矢が窓の外で話していたので、風介の方にストラップが付いた携帯を振った。そしたら彼はわずかに微笑み、ポケットからはみ出したストラップを指で弾く。少しだけ、近づいた気がした。晴矢は子供みたいに、風介に突っ掛かっていた。
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