おれは雷鳴。雷が鳴るって書いて、雷鳴。この名前は誰が付けたのかは知らない。よくカッコイイっていわれる。…でも、おれは、この名前が大っ嫌いだった。理由は雷みたいな声だって、皮肉られるから。おれにだって、悩む権利はある。


「雷鳴、」

「…あー?」

「起きたほうがいい」

「…んっ、…なん、だよ。…気持ち良く寝てたのに。邪魔すん…っいってえ!」


直後、目の前に星が瞬いた。先生に叩かれたのだ。出席簿を使うなんて卑怯極まりないと思う。凶器だぞ、凶器。そしてその笑顔の怒りをやめてくれ。すげー、こわい。


「おはよう、雷鳴くん」

「お、はよーございまー…」

「とりあえず、この公式を言ってみなさい」


やっぱりな。この先生はそうやって俺を責めるんだ。分かるはずのない問いに、俺はうなだれた。


「…わか、りま…せん」

「じゃあ、立ってなさい。…なまえさん、代わりに答えて」

「…はい」


隣のなまえが立ち上がった。幼なじみなのにつめてーよなー。くるくるとシャーペンを弄っていると、先生に睨まれて縮こまる。そんな中、なまえは公式をすらすら答えたけれど、おれには呪文のようだった。










「なまえ!お前、起こすのおせーんだよ!」

「仕方ないじゃないか。あの先生の当て方はランダムなんだ。あのタイミングが最善だった」

「だったらせめて答えをよー。こそっと教えてくれるとか…」

「無理だね。君の声は目立つから、こそっとなんて不可能だ」

「う、うるせー!」


ちょっと叫んだつもりなのに、周りは一斉にこっちを見た。両手で耳を覆ってるやつまでいる。


「あ、わりぃ…」


数秒後には元に戻ったけれど、おれはなんだか悲しくなった。


「なぁなまえ…」

「うん?」

「声がでけーと、迷惑なんかな…」


別に気にしてないふうに言ってみた。だけどなまえは何かを感じたように作業を止め、こちらを見る。


「どうして?」

「えっ?…や、べつに」


なまえのまっすぐな目に堪えられなくて、言葉を濁す。どーして同い年なのに、こいつばっかり大人っぽいんだろう。近くにいるのに遠い気がしてならなかった。


「…そんなことはない。それは君の長所だ。誇るべきだよ」

「そ、そうかぁ?…おれにはなーんも利益がねーよ」

「そうかな。私にはあるけどなぁ」

「えっ?例えば、どんな?」


それは初めてだった。やかましいと言われつづけたおれにとっては朗報で。興味津々に身を寄せると、なまえは笑った。


「…私は、君といると楽しくなるな。私まで明るいって気になれる」

「な、なな、なんだよそれ」


カッと顔が赤くなるのを感じた。なくさないでくれよ、その長所。なんて続けるから、もっともっと赤くなった。


「…私は好きだな、雷鳴」

「なにを…」

「君の、声がさ」


にこりと微笑むなまえ。お、おれだって好きだよ。そのきれーな声。…なんて、今は恥ずかしくて言えないけれど、いつか必ず伝えようって思った。大人っぽいお前に見合うような、でっけー男になってみせる。そしたら、いつかお前と、


「一つ屋根の下で暮らすんだ!」

「ふふ、誰とだい?雷鳴」

「う、うわ!うるせー!」


おれは再び教室の注目を浴びた。

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