「俺、毛利元気っつうんス。よろしくです、先輩」


とまぁ初々しいほどの挨拶を経て、彼は勤務に付いた。とはいっても、アルバイト同士の身。私はそれ以上の関係(友達とか)にはなるつもりもないし、今までだってなったことはない。別にいいじゃない。たかがサービス業なんだから、お客様と仲良くしていればいいんでしょ。…故に私は孤独だった。休憩時間だっていつも独り。でも別にかまわない。一人ほど気楽なものはないから。アルバイトなんてこんなもの。仲良くなったっていいことなんて、ない。私は彼が伸ばした手を無視して、軽い会釈をして済ませた。不思議がる彼に、他のアルバイトが耳打ちする。彼女は暗いから、放っておいていいのよ。なんて、聞こえているよ、胸糞わるいその言葉。彼は眉毛を吊り上げて笑っていた。










「…はぁ」

「先輩はぁ、高校生なんスか?」

「わっ」


休憩時間に彼に話かけられた。驚いて睨み付けると、なぜかニカッと笑われる。


「俺、雷門なんス。先輩って雷門中出身ッスよね?」

「……………そうね」


だからなんなのよ、こいつは。他のアルバイト達がこちらを見てひそひそ話しているのが見える。どうせ、あの子も物好きね…、なんて話しているのだろう。目立ちたくない。うるさい。不快。私は話を切り上げようとイヤホンを取り出した。


「おっ、先輩は音楽聞くんスか。奇遇っすね、俺も聞くんスよ」

「……誰だって聞くでしょ」


本当になんなの?馬鹿にしてるのかと思う言動。イライラがつのる。


「普段なに聞くんスか?」

「…何だっていいでしょ」

「そっすか?俺はJ-POPッスね」

「…そう」

「例えば天城越えなんか最高で、特に」

「…本気で言ってるの?それ」


ええっなんでッスか?とやけにオーバーに驚く彼に、呆れて笑ってしまった。確かにジャパニーズかもしれないけれど、J-POPでくくるほどじゃないと思うけど。と付け足せば、彼はなるほど、と納得する。


「そもそも、J-POPに分類出来るのかも意見が分かれるとおもうよ」

「まじすか?うわ、俺恥ずかしいッスね」

「別に間違いだって言ってるわけじゃないんだから、いいじゃない」

「…そっすかー?ま、先輩が言うならそうかもしれねぇっすね」


そしてまた彼は、ニカッと笑った。少し眩しくて目を逸らすと、他のアルバイトの顔が映る。みんな驚いた顔をしていた。


「へぇ、なまえさんってそんなに喋るのね」


と同期の子が話す。


「ホントは元気な子なんじゃないか。驚いたよ」


と上司が話す。私は恥ずかしくて俯いていた。そしたら彼が胸を張って言う。私はその言葉を聞いてから、彼のことを見られなくなった。純粋なんて、怖いものだと思っていたのに。





「当たり前ッスよ!俺が何年、片想いしてると思ってんすか!」





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