「河高、何してるの?」

「…なんでもないさ。気にしないで、寝てなよ」


そう口で言うものの、明らかに彼は手に持っていた何かを背に隠した。まただ。彼は私に隠したがる癖がある。この前だって彼が大切そうにしまっていたテープを、興味の赴くまま見てしまった。そういうビデオなのかなと思ったけれど中身はなんと、首が飛んだり、腕がちぎれたり、みそが弾けたり。血が噴水のように溢れ出すような、映画ばかり。所謂あれだ、スプラッターというやつ。人の趣味を否定をする気はないけれど、さすがにびっくりした。けれどそれ以上に、隠されたことが頭にくる。翌日彼を問い詰めたら、すごく悲しそうな顔をした。


「…ごめん」

「別に責めてはないけれど…、どうして黙ってこそこそするの?」

「それはその、………ひ、引かれると、思ったんだ」

「なんだいそれ。引くわけがないじゃないか。君が好きならそれでいい」

「…ほ、本当?」

「もちろん」

「ありがとう、なまえ…」


それから彼は明るくなった。隠れてこそこそ、なんてなくなったし、私の前でそういう映画の話をするようになった。1番のポイントは首を切った時に溢れ出る血飛沫らしい。彼は執拗に綺麗だ綺麗だと褒めたたえた。私にはよくわからなかったけれど、彼がそういうならとそうだねと肯定した。そんなこんなの末、今にいたる。彼はまったく成長していなかったのだろうか。


「…なまえ。寝てる?」

「………」

「…寝てるよね」


もちろん、寝たふりだ。今回も尻尾をつかんでやる。私は沈黙を通すことにした。


「…そのな。今日は、なまえの誕生日だろ?だから、なまえが嫌いなことしってて、こそこそしちゃったんだ、ごめんね。でもこれでさいごだ。俺、ホントにお前のことが好きなんだ。俺のことを認めてくれた、初めての人。綺麗だって言ってくれた人。それが、心から嬉しかった。今まで誰も認めてくれなかったから。ありがとう、なまえ。本当にありがとう。だからな、俺はおかえしにお前を綺麗にしてやりたいんだ。綺麗なの、好きだろ?化粧なんかに頼らなくても、人間は綺麗になれるんだって、なまえが言ったんだ。俺は感動したよ。大好きだ、なまえ。本当に好きだ。愛してる。…誕生日、おめでとう」










起き上がろうと力を入れたけれど入らない。首筋に感じた冷たい感触のあと、目の前が真っ赤に染まる。さいごに見えたのは彼の笑顔。眩しいほどに、綺麗だった。

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