「これやるよ」


そっけなく投げ付けられた包みには、私が好きなブランドの名前が印字されていた。急にどうしたのだろう。不思議に思いながら慎重に袋を開けていくと、掌に落ちるストラップ。それは前に私がかわいいと呟いた物だった。


「こ、これ…」

「やるよ。前に欲しそうにしてただろ?」

「そ、れはそうだけど…、でも高かったでしょ?」


そしたら彼は、女が金の心配すんなよ!と身も蓋も無いことを言い出した。けれど私が感じたのは心配、というよりは申し訳なさ。彼の家が三兄弟を総動員しなければやっていけない状態なのを知っているからこその気持ちだった。


「やっぱり、」

「俺ん家のことは気にすんなよな」

「で、でも…」

「なんだよ、お前の笑った顔が見たくて沢山働いたんだぞ!そんな顔されちゃあ報われねぇって!」


がしがしと頭を撫でられ、そっと額に唇を落とされる。掌の中で輝く宝物は、ずっとずっと大切にしようと思った。


「ありがとう、元気…」


嬉しくて嬉しくて、涙を堪えながら言ったら、彼は照れたように頬をかいた。













「あんだぁ、それ。ぶっさいくだな」


私の携帯にぶら下がるストラップを見て、彼は顔を歪めた。大切なものなんだけど、不細工なところがいいんだけど。と返すと、彼はわかんねーなとばかりに舌打ちをした。


「あのブランドだろ?…お前、そーゆーの好きなのかよ」

「…好きだけど、悪い?」

「うわっかわいくねー!…じゃあストラップじゃなくてよ、服買えばいいじゃねーか」

「あのねぇ、無理いわないでよ。高すぎてとても手が出ないの」

「んじゃあ、俺が買ってやるよ。あんな店だったら、まるごと買ってもお釣りがくるしな」

「いらないよ、別に」


断られたことに驚いたのか、即答されたことに驚いたのかはわからないけれど、とにかく彼は目を見開いた。なんでだよと怒鳴らんばかりの表情が、少し怖い。


「………。…それ、毛利からだろ」


しばらくの後、彼は目を伏せながら呟いた。私がこくりと頷くと、やっぱりなと小さく笑う。


「あいつにはかなわねーよ。お前が欲しいのは、あいつみたいな愛情だからな。…俺とは、種類が違うんだ」

「な、ななな、何の話…」

「育った環境が違うってことさ。人の上に立てば、何でも手に入るって思ってた」

「武流人…?」

「俺が買ったストラップと、あいつが買ったストラップじゃあ、価値が違うってことだ。お前は、」


そこまで言って、彼は唇を噛み締めた。鋭い目つきで地面を見つめているけれど、何を見ているのかは、私には見当もつかない。


「…俺だってさ、お前のこと好きなのにずりーよな」


自嘲気味な彼の笑顔が、胸の奥に突き刺さった。
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