「やるなら今だ」

「だ…、だめだよ。そんなことしたら、」

「だめじゃねぇ、お前がやらねぇんなら俺がやる」

「いやだよ、嫌われちゃうよ」

「うるせーな。もうお前は嫌われてんだよ。見ただろあいつ、お前を捨てて他の男と付き合いやがったじゃねーか」

「そ、それは、彼女の勝手だし、それに、」

「いいこちゃんぶってんじゃねーよ。ほんとは悔しいんだろ。裏切りだって感じてんじゃねーのか?」

「そ、そんなこと…」

「おいおい、裏切られたあげく、すんなり諦めんのか?」

「仕方ないよ。彼女は僕じゃなくて彼を選んだんだから…」

「情けねぇな。…じゃあお前は大切ななまえが他の男に犯されるのを、指をくわえて見てるってわけだ。大層ご立派だな」

「それは、」

「なぁ、知ってるぜ?お前があいつのことを思って、自分でしてたこと。夢に出てきたこともあったよな。気持ち良かっただろ」

「う、うるさい…!」

「もう我慢するのはやめだ。だってお前は裏切られたんだぜ?被害者なんだよ」

「うるさいうるさいうるさい!」

「好きなんだろ、なまえのこと。手伝ってやるから、やっちまおうぜ」

「いやだ!僕はなまえを傷つけたりしない!」

「…だったらこう考えたらどうだ?…味見、って」

「なにを、」

「お前だってなまえを大切にしてきたんだ、少し手を付けるくらい良いだろ?どうせ汚れるもんなんだ、今更埃なんて気にしたところで同じだしな」

「ぼ、僕は…」

「本当お前はよくやったよ。偉い偉い。だからご褒美だ。誰も咎めたりはしねぇよ」

「僕は…」

「好きなら尚更、愛してやれよ」


下唇を噛み締めて、涙を浮かべながらあいつはなまえに跨がった。途中で止められるほどの力が無いことを知りながら、俺はあいつを差し向けた。それに残した料理は俺が最後まで平らげるつもりだから、鼻っからなまえに逃げ場などない。裏切った方は一人でも、裏切られた方は二人だ。だからこれくらいの仕打ちは当たり前だと思った。なのになぜか、俺の目からは雫が零れた。違う。鏡に映る自身を見て、絶望した。いま、現在、あいつを犯しているのは、俺だった。
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