「俺はサッカーなんかよりも、テニスの方が面白いと思うぜ?なぁ、てめーもテニス部に入れよ。そしたら俺も戻るからさぁ。…正直疲れんだよなぁ、この部活。俺ァ小さい頃からテニスばっかだったからよ、身体が他のスポーツを受け入れねぇってゆーか、なんかこう…慣れねぇんだよなぁ」


右手を月にかざし、グリップを握る仕草をする彼。その表情は寂しげで。ぎゅっと握られた右手には何を掴んだのだろう。開いた手の平をじっと見つめるその瞳は、泣き出しそうな色をしていた。


「テニスなら、皆に迷惑かけねぇで済むんだけどな…」


呟いた言葉には、彼の中の全ての気持ちが込められていて。口に出すなど意図していなかったのだろうか、本人が1番驚いていた。


「俺、今…」

「ん?なに?」

「…な、何かいったか?」

「うん?…全然なにも聞こえなかったな」

「そ、うか…」


彼がほぅと息を吐く。そんな心の弱さも、弱音も弱気も。私は全てを知りながら、全てを知らないふりをする。それが彼のプライドの為で、彼の為だと知っているから。


「…俺さぁ、自主練いってくるわ」

「いってらっしゃい」

「…てめぇも気をつけて帰れよ」

「うん。じゃあね、またあした」

「あぁ、またな」





握りしめたその手には、未来の栄光が光っていた。






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