「辛いこととか、嫌なこととか、あったらここに来ればいいよ」


なまえちゃんは私に向かって微笑んだ。私の中の汚いものを洗い流してくれるその瞳は、綺麗で透明で。見ていられなくて、静かに俯く。


「う…うん、ありがとう。でも…、大丈夫。今まで辛いことも悲しいことも、一人で抱えてきたから、今更だよ」

「…そうかな」

「そうだよ?だから心配しないで。…そんなこと言って、なまえちゃんに嫌われたくないもの」


そう言ったら、なまえちゃんはうーんと唸った。


「…別に、嫌いになんてならないよ。一人で苦しむくらいなら、私が少しでも力になりたいと思っただけ。人に話せば楽になることもあるんだ」

「でも…」

「秋。君はいつも背負い過ぎる。そのうち一人では歩けなくなってしまうよ。円堂のことだって…」

「えっ、円堂くんは関係ないじゃない!」


慌てて言い返せば、にやにやとなまえちゃんは笑った。なにもかもお見通しなのね。恥ずかしくなって、ゆっくりと息を吐く。


「今更なのは、こっちだよ。円堂のことが好きなんだろう?見ていれば分かる。君は優しいからね。いつだって淋しさを押し殺す」

「…さ、」

「淋しくないというんだろう?本当は淋しいくせに。わかっているよ、そんなこと」


ずきりと心が痛んだ。それを察してか、なまえちゃんはすくっと立ち上がり、座る私に手を差し延べる。


「応援も仲介も、なにもしてあげられないけど。話を聞くだけならしてあげられるから。いつでもおいで」

「なまえちゃん…」

「秋の心で、愁えるって読むんだ。でもね、心を痛めるのはもう止めにして、たまには頼ってみなよ」


眩しい光に目を閉じる。あてもなく伸ばした腕は、力強く捕まれた。その体温に何かを感じてしまった私は、おかしいのだろうか。
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