「先輩、聞いてくださいよぉ」

「なんだい、宮坂くん」


答えると、ぱぁっと明るい笑顔を見せ、彼はちょこんと横に座った。


「あのですね。陸上部の先輩に、お前はヤンデレじみてるなって言われちゃいました」


…ふーん、と抜けた言葉を返すと、どうやら彼は気を悪くしたらしくムッとした。きっと自分に興味を持って貰えていない態度が嫌なのだろう。


「先輩もなんで僕がそんなことを言われなくちゃならないのか、一緒に考えてくださいよ!」

「えっ?い、いやだよ…」

「なんでですかー!まさか、先輩も僕を裏切るんですか?風丸先輩みたいに」

「う…っ!」


食べていたものが喉につっかえた。げほげほと咳をすると、宮坂くんがそれを無垢な瞳で見つめているのが目に入って。この子は本当に無邪気だなぁ、ある意味で。気がつけば、そんな皮肉とも取れることを考えていた。


「先輩、大丈夫ですか?」

「う、うん。…でもね、宮坂くん。冗談でもそんなこというもんじゃないよ?風丸が可哀相だ」

「いいんですよ、先輩。だってホントのことですから」


そしてこの笑顔。あぁやっぱりこの子は…。


「そういうところが病んでるっていうんじゃない?」

「えぇーっ!どこですか?先輩、詳しく教えてくださいよぉ。じゃないと帰しませんよ!」

「いや、そことか…」


なにがですか?どこがですか?そう繰り返す彼が必死で抱きしめている私の腕は、すでに所々赤くなっていた。彼が鋭く爪を立てるから。


「僕にはもう、先輩しかいないんです。だから…だから、先輩は僕だけのものでいてくださいね!」

「う、うん。でも…」

「ぜーったいですよ!」


彼はその笑顔の裏に何を隠しているのだろう。悲しみ、淋しさ?いいや、違う。きっと、憎しみ。気がついていない恨みの念に、いつか君が飲まれてしまわないように。私に出来ることはしていきたい。この身が壊れて、失くならない限り。


「先輩、先輩!」


次はどんな話題なのだろう。止むことがない彼との会話に、再び耳を傾けた。
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