人の生き死になんて案外、曖昧なのかもしれない。本人が生きていると主張しても、周りの皆がそれを否定すれば死んだも同じ。反対に本人が死んでいると訴えても、周りの皆が認めなければ生きている。ほら、生死なんてこんなにも曖昧でおぼろげだ。だから今日ぐらい死んだっていいだろう?おぼろげな夢に身をまかせ、全てを否定したって。


「佐久間」

「………」

「無視かい、佐久間」

「…今の俺は死んでいる」


俺の不可解な言動にも、彼女は驚く様子はなく。俺はますます情けない気持ちになって、病院特有の匂いがする布団に潜り込んだ。こんなの、ただの八つ当たりだなんて分かっているのに。


「まだ死んでるの?」

「………」

「…強情だな、次郎は」


彼女が俺の下の名前を呼んだ。…ずるい。こんなときばかり俺の名を紡ぐんだ。がばっと布団をめくって起き上がり、彼女の頭をぐりぐりとみだしてやる。うわ!なんて驚いたあと、不機嫌な顔で髪を整える姿を見たら、少しだけなまえに甘えたくなった。


「俺、今は生きてる」

「そう、よかった」


明日になったらきっとまた、君がお見舞いに来てくれるのだろう。死んだ俺の心を唯一、蘇らせてくれる優しさで。
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