「冷たい」


彼女は僕の手を振り払って言った。僕の手が冷たいから、冷たいなんていって振り払ったんだ。きっとそうだ。けして僕の態度が冷たいとか、そういうわけじゃない。そうでしょ?だって僕は君にこんなにも尽くしてきたじゃないか、愛を囁いてきたじゃないか。それをそんな一言で壊されてはたまらない。いやだ。否定しないで。


「…それ、僕の手のことを言ってるんだよね?」

「うん」

「そ、そうだよね。よかったぁ」


本当に良かった。だってこんなにも君を大切にしてきたのに、その努力を否定されてしまっては、僕だって悔しい。安堵によって、心の重りが消えたのを肌で感じながら、僕は彼女の横に座った。ここからなら、綺麗に目の前のアートがよくみえるね。白と赤のコントラスト。そこに不釣り合いな金の糸が、逆にいい味を出している。とても、綺麗な光景だ。僕が目の前の作品をうっとり眺めていると、彼女が静かに近づきアートの手を取った。


「…なに、やってるの?」

「冷たい」

「それはそうだよ。出来てからどれくらい経ったと思ってるの」

「かたい」


こら、ダメだよ。作品に触っちゃあ。せっかくの色彩が崩れてしまう。腕を引くと、彼女は身をよじって振り払った。どちゃっと崩れ落ちた身体は作品の中に埋もれ、彼女は悲痛な叫びをあげた。作品の名前をなんども呼んだので、少し頭にきたけれど、所詮ただの作品だと僕は割り切ることができた。数時間前の僕なら出来なかったこと。成長したなぁとうれしくなった。それに比べ、君は物分かりが悪い子だ。でもそこが可愛いんだけどね。僕はずっと大切にしようと誓った。目の前の作品は腐る前に土に埋めようと思った。
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