何かが足りないと嘆くほど。(復活・ディノヒバ)


 空に昇る白い煙。それを見ていると、そのまま彼を空へ連れて行ってしまいそうで、とても、不安になる。


■何かが足りないと嘆くほど■


 ゆらゆらと、青空に向かって紫煙が昇る。

「それ、消してよ。」

 隣りでフェンスに寄り掛かって煙草を吸っているあなたは、一瞬困った顔をして言った。
「ん、悪ぃ。でも火点けたばっかだから、もう少し我慢して?」

 優しく、子供を宥める様にあなたは笑う。
 恭弥は顔を背け、フェンスに寄り掛かりながらディーノの足元に座った。空を見上げれば、そこには一本の細くて白い線が伸びている。
 別に煙草が嫌いなわけじゃない。こんなのは本人の嗜好の問題だ。そうは思っていても、やはりディーノが煙草を吸うのは気に入らない。空に昇る煙草の煙を見ていると、どうしようも無く不安になるのだ。
「どうした恭弥?難しい顔して」
「別に…」
 あなたのせいだって、何で気付かないかな。
 恭弥はスッと立ち上がりディーノの隣りに立つと、素早く彼の咥えていた煙草を取り上げた。
「ちょ、なにするんだよ恭弥!」
 文句を無視してそれを地面に叩き落とし、靴の裏でグシャグシャに踏んで火を消した。
 それを見たディーノは呆れたように溜め息をつき、恭弥の頭を優しく撫でた。
「よく分かんねぇけど、不安にさせちまって…ごめん」
 そっと両手で恭弥を包み自分の胸に寄せると、数秒経ってからおずおずと慣れない手付きでディーノの背中に腕がまわされた。――暖かい。そう感じたのは、きっと2人同時に違いない。大きく息を吸うと、ディーノからは香水に混じってさっきの煙草の匂いがした。
「……煙草、外では絶対に吸わないで」
「………」
 ディーノは何も答えない。いや、意味が分からないから答えようが無いのだ。禁煙しろ、とか、自分の前では吸うな、とかなら分からなくも無いが、外で吸うな、とは。普通は逆だろう?恭弥の意図がどうも読めない。
 だが背中にまわされた腕の温もりに比べたら、どうでも良い事の様な気がした。恭弥が嫌なら、それで恭弥の不安が解消されるなら、理由なんてどうでもいい。
 ふわっと、心地よい風が流れる。誘われるように見上げた空は、まるでイタリアの海のようだった。


END

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