おもちゃ箱(復活・ディノヒバ)


逢った瞬間、射抜かれた。

それは電光石火よりも素早く俺の中を駆け抜け、心臓をえぐっていった。『一目惚れ』なんて陳腐な言葉は好きじゃないけど、この感情に当て嵌まる言葉が見つからない。例えるには、これが精一杯だった。

「はぁ…」
と息を吐いてディーノは走らせていたペンを置いた。顔を上げればディスクから零れんばかりの書類の山。今日中にこれを全部処理しなければならない…。日々溜まっていく書類。普段ならこんなことは無いのに、この数日どうしても仕事がはかどらない。は、と再び息を吐いてディーノは背伸びをしながら椅子にもたれた。
――原因は分かっている。
「あ〜……らしくねぇ」
がしがしと頭を掻いて静かに瞳を閉じた。瞼の裏に浮かぶあの情景に、もう失笑するしかなかった。

それはほんの数日前。
自分の不甲斐なさで弟分の綱吉に怪我をさせてしまい、入院する病院に見舞いへ行った帰り。部下を引き連れ廊下を歩いていると、向かいから歩いてくる漆黒の髪の少年が視界に入った。
その少年の、黒い寝衣に身を包み颯爽と歩む姿は高貴かつ美しく、誰にも媚びたりなんかしない、そう、気位の高い猫。ディーノは幼い子供がおもちゃやお菓子を欲しがる様に、ただ単純に少年を欲しいと思った。
一歩一歩。少年が近付く度に心臓が高鳴り、すれ違いさまにちらりと視線が合うとそのナイフのような鋭い眼光に身動きが出来なくなった。威圧された?この俺が…?背中にじんわりと汗が伝い、微かに足が竦んだ。

…こんな感覚は初めてだった。

「名前、聞いておけばよかったな…」
結局俺はあの後、少年の足音が消えるまで動けなかった。
マフィアのボスがジャッポーネの子供に、しかも男に一目惚れだなんて…。とんだ笑い草だと思いつつも、日に日に湧き水のように溢れてくる感情をディーノは押さえることが出来なかった。
だいたい名前を知ってどうする?名前を呼んで、君に一目惚れしたと告げたところで、あの少年が手に入るとは思えない。手に入れるには、もっと特別な手段が必要だ。
うんうん唸っていると、怪訝な様子でロマーリオが自分を見ていた。そういやボスのあまりの変貌ぶりに、そんなに気になるなら調べようか?と心配して何人かの部下が言ってくれた。しかし無断ってのは気が引けて断った。見知らぬ人物が自分の事を知っていたら気分が悪いはずだ。
だが断った理由はそれだけでは無い。予感がしたのだ。近いうちにまた逢えるという、不確かな、それでいて絶対的な何かが。この胸にしこりとなって鎮座しているのだ。
…だから必要ない。
「さってと、仕事すっかなー」
劇的に美しく素晴らしい再会を思い浮かべながら、ディーノはペンを取り、再び書類の束と向かい合った。

END

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