踏み出せば変わる景色。(脱色・日乱)


 好きだと言われる度に、あたしの心はいつも黒く溺れていく。


■踏み出せば変わる景色■


 いつも不思議に思う。何故あの人はこんなにもあたしに執着しているのだろうかと――。

「そりゃあ乱菊さん、好きだからに決まってんじゃないっすか〜」

 なみなみと注がれている杯の酒を一気に飲み干し、恋次はぷはーっと息を吐きながら言った。もうだいぶ酔いがまわってきているのか眼は虚ろだ。

「隊長があたしを…ね」

 同様に酒を飲み、空になった杯に恋次が再びトクトクとお酒を注いでくれた。
「だってほぼ毎日なわけじゃないっすか。本気じゃなきゃなかなか出来ないですよ」
 確かにその通りなのだけれども、あたしにはそれがいまいち理解できないでいた。上司と部下。どうして彼はそれだけでは満足出来ないのか。何故それを崩してまで、あたしを欲してくれるのか。
 好意を持ってくれていること事態はとても嬉しい。でもそれはあくまで好意という感情でだ。恋愛的要素で持たれると…正直困る。そもそもこれは恋愛感情なのかも怪しい。歳だって身長だって差がある。たとえ最年少で隊長になったとて、それを告げるには彼はまだ幼過ぎると思う。だからあたしを好きだと言うのも……。
 もちろん隊長が嫌いなわけじゃない。ただ、怖いだけ。あの透き通った美しい翡翠の瞳で見つめられると、何処までも溺れていきそうで怖くなる。

「乱菊さん、それって…日番谷隊長のこと、好きだって言ってるようなもんっすよ?」

「――え?」

 自分で認めていないだけで、俺には乱菊さんも日番谷隊長を好きだって聞こえます。そう言いながら、恋次はつまみの枝豆を頬張った。
「………」
 ―――気付いてしまえば、至極簡単なことだった。悩む必要なんて無かったのだ。だってあたしは既に溺れていたのだから。彼という湖に――。

「どうしよう。今更どんな顔で会えばいいのかしら…」

 もうじき夜も明ける。彼がまたあたしに想いを告げて来たら、そしたら――。
 顔が熱い。あたしは無理やり恋次を連れて、違う酒場で飲み直すのだった。

END

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