僕だけがいつまでも君を思っている。(復活・フゥビア)
彼女の中に僕の入り込む隙間なんて無いことぐらい自覚している。
彼女と僕では、根本的に見ている世界が違うのだ…。
■僕だけがいつまでも君を想っている。■
でもそれは彼女にも言えることだ。
ふと、僕はそんな残酷なことを考えた。
リボーンが見てるのはいつだって近くて遠くの未来であり、ボンゴレの行く末。ボスであるツナ兄の将来。
何よりも優先すべきは仕事な彼がビアンキを本気で好きになる余裕なんてあるとは思えないし、ビアンキが好みのタイプだとも思えない。
でもそれは、きっと彼女も薄々感づいてるはずだ。リボーンが自分を愛することは皆無に等しいと知っていて、それでもビアンキは彼の側を離れない。
そしてリボーンも、『愛人』という地位を彼女に与え、今だに手放さない。
いや、手放せない、が正しいのかも知れない。ビアンキの性格を考えると下手に刺激して逆上されでもしたら、流石のリボーンとて命の危険が伴う。
ランボが良い例だ。
彼は『ロメオ』という元恋人に顔が似ているというだけで、何度も生死の境を彷徨っている。一体どんな別れ方をしたらあんなヒステリックになるのだろうか…。
とどのつまり、これはリボーンの自己防衛なのだ。
味方の内は心強い。(ビアンキはどんなに危険な任務も文句一つ言わずそつなくこなす)だが、敵に回すとなると非常に厄介な相手。
恋に狂った人間は、国さえも滅ぼす力がある。
そんな恐ろしい存在は真っ先に消してしまうべきだったが、そうするにはもう時間が経ち過ぎてしまった。もう遅い。愛してやることは出来ないが、手放すには惜しい人材に昇格してしまった彼女を、彼は『愛人』という比較的安全策をとり側に置いた、という処だろう。
つくづく冷徹で残酷で、優しい男だ。
だがそのほんの少しの優しさがあったからこそ僕は彼女と出会う事ができたのだから、その点に関してだけは皮肉だが…、感謝しなければなるまい。
とても不愉快だ。
いったい彼女は彼のどこにそこまで惹かれているというのか。まったくもって理解不能だ。
「それはお前にも言えることだろーが!」
突然降ってきた声の先には、彼女とよく似た髪をした青年が立っている。
「……え、何?隼人兄ってエスパー?」
「馬鹿かお前は。全部口に出してんだよ!」
「じゃあ盗み聞き?隼人兄、悪趣味だよ」
「果たすぞテメェ」
フゥ太のくせに生意気なんだよ!と頭部を書類でベシッと叩かれた。大して痛みは無いが、とりあえず患部を擦りながら痛いよ、と呟いた。
ビアンキのどこが好きかだなんて自分でも分からない。そう、気付いたら好きになっていたのだ。
「あんな女、好きになるだけ無駄だぜ…」
「そんなの言われなくたって分かってるよ…」
彼女の心はいつだってリボーンで埋め尽くされている。ビアンキの世界の中心はリボーンであり、多分これは、ずっと続く。僕の入る隙間なんて無い。
「ビアンキを置いて死んだくせに…」
自分でも驚くほど冷たく放った言葉を遮るように、隼人兄は思いっきりデスクに拳を叩き付けた。
ダンッ、という音が部屋に木霊し、凄まじい怒りの瞳が自分の顔を映しだしている。
きっと、同じく死した愛する主君のことを思い出したのだろう。彼は何も言わずに、ただただその瞳で僕を刺した。
そして僕も、謝ろうとは微塵も思わなかった。
どんなに足掻いたって、生者は死者に勝てない。
自分に都合の良い思い出だけを相手に記憶させ、その人への想いをより強く、神聖なモノにしてしまう。(ビアンキや隼人兄はこれの典型だ。)
リボーンは僕が勝てる唯一の手段でさえ先に奪っていったのだ。
組織の誰もが彼の死を嘆き、勇姿を称え、そして崇めた。
そんな神にも等しきモノへと昇華してしまったリボーンに、今さら僕が勝てるはずも無い。もうこの先、彼女の心が僕に向くことはありえないのだ。
そう思ったら、急に涙が出そうになった。
いったい僕は何をやっているんだろう。はじめから、ビアンキの心に僕が入り込む隙間なんて無かったじゃないか。
今も、これからも。
僕らは出会ってから、何ひとつ変わりはしない。
決して交わることの無い平行線の上を、僕らは歩んで行くのだ。
「……隼人兄、」
消えそうな声。自分のじゃないみたいだ。
視線の先にあるビアンキと良く似た顔に、思わず鼻の奥がツンとする。
「それでも僕は…、どうしようも無くビアンキが好きなんだ。」
「……。」
「振り向いてくれなくったって、嫌われたって、他に…好きな人が出来たって、僕は……!」
堪え切れずこぼれ落ちた涙をぬぐうことも忘れ、僕はそれに続く言葉を何度も何度もすがる様に叫んだ。
■僕だけがいつまでも君を想っている。■
end
ビアンキは好きな相手が死んだら生きて行けない人間だと思う。
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