焼け付く想いは。(復活・ベルマモ)
隣りで少し苦しそうな息をたてて眠る幼い少女に、俺はついさっき刃を向けた。
■焼け付く想いは■
きっかけは本当に些細なこと。スクアーロとマーモンが会話をしていた、ただそれだけ。いつもだったら気にも止めないその行為が、今日に限ってはどうしようもなく腹立だしかったんだ。
仕事以外の会話を極力避けてる(ように俺は見える)彼女は、いつもスクアーロとだけは屈託のない笑顔で自ら進んで会話をする。傍から見ても彼女がスクアーロに何らかの特別な感情を抱いているのは確かで、でもそれは恋愛感情とは違うモノに思えた。
じゃあそれは何なのか。友情?尊敬?どれも当てはまりそうで、どれも違う気がする。こんな本人にしか分からないようなことに、何故いちいち悩むんだ…そう
――何故こんなにも彼女のことが気になっている?何故こんなにもスクアーロと話しているのが腹立だしいんだ…?
「そんなムズカシイ顔してどうしたの?ベル…」
不意に視界に影が差しベルは反射的に面を上げる。そこには眉をしかめながら乱れた髪を整えるマーモンの姿。きっとスクアーロとの戯れでグシャグシャにされたのだろう。
「………。」
――腹ただしい。でも、何に?
「ベル?」
何も言葉を発しない俺を不審に思ったのか、マーモンはズイッと顔を覗き込んできた。一気に鼓動が高鳴る。それを隠すようにベルはマーモンの揺れるシルクのような髪に手を伸ばし、触れた。
軟らかくて、艶のある髪。その感触を楽しむかの様に指に絡めると、
「―――触らないで!!」
マーモンはそう言ってベルの手を勢いよく払いのけた。
「――気分が悪いわけじゃ無さそうだね。じゃあ僕行くから!」
有無を言わさずに捲し立て、踵を返すマーモン。
――何だよ、それ。スクアーロはよくて俺は駄目って、何なんだよ! 込み上げてくる、黒くて赤いもの。後から後から湧いてきて、ドロリとしたものに思考が支配されそうだ…。
「―――ッ!」
ベルは小さく舌打ちをし、去って行くマーモンの背中を眺めながら必死にスクアーロと自分の違いを探した。
正直、触れられるのを拒むほど嫌われることをした覚えは無い。だいたい会話も仕事もまともにしたことすら無いんだ。何もしてないのだから、嫌われようが無い。(と思う。)――そういえば、俺だけだ。マーモンと一緒に仕事をしたことがない奴は。いったい俺と他の男とどう違うってんだ?ああ、気に入らない気に入らない!
「――ん?」
―――他の…男?
パチパチと、脳みそのパズルが次々と所定の位置にハマっていく。形が出来上がっていく。
――ああ、そういうことか!
何て簡単な問題だったんだ。いてもたってもいられなくなった俺は、まだ遠くないマーモンを軽い足取りで追いかけた。
「マーモン!」
振り返るよりも先に手を伸ばし、肩に触れ、引き寄せる。強引過ぎたのか、マーモンは「ふぎゃ!」と変な声を上げ怪訝な顔だけで振り返り、歪んだ瞳で俺を刺した。思わず笑みが零れる。
「俺さ、マーモンのこと好きになっちゃった!」
見る者すべて幸せにさせるような満面の笑みで、ベルは迷わずマーモンの首筋にナイフを突き付けた。
■焼け付く想いは■
(混沌とした世界しか知らない僕と君。落ちるところは恋か闇か…)
end
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