ロマンチック・ペイン(復活・綱→髑)
髑髏の一番は骸で、骸のことを話す君は生き生きしていて……俺はそれが腹立たしい。
■ロマンチック・ペイン■
かすかに拳を震わせた少年が、未来のボンゴレ10代目が、すべてを包み込む大空のように澄んだ笑顔をみせる彼が、私を見据えて好きだと放つ。
友情ではなく恋愛の意味で、ボスは私に好きだと言った。
「……ボスの言ってる意味、よくわからないわ」
本当に、理解不能だ。
主君である綱吉が不思議でならない。髑髏はふつふつと水面下で怒りが込み上げてくるのを感じた。
――この人は、なんて贅沢なんだろう。
好かれているくせに。
あの人が好いてくれているのに、この人はそれに見向きもしない。骸さまがあんなにも想いをぶつけているのに、それに答えようともしない。そんな綱吉が髑髏は腹立だしかった。そして涙が出そうだった。
自分がこうして地に足を着け、自由に呼吸をしていられるのは骸のおかげで、更に彼は親からも見放された自分に居場所をくれ、光をくれた。だから言葉なんてものでは表せないほど、彼には感謝しているのだ。尊敬の意で、愛している。それはきっと、千種や犬とも同じ。
―――だからこそ、腹立たしい。
誰よりもあの人の役に立ちたいと願っているのに、自分はその邪魔をしている。私には骸さましかいないのに…。そんなこと言われたら、私は骸さまに顔向けできないわ。
「ボスのことは嫌いじゃないわ。でも…」
骸さまが悲しむ。
そう呟くと、綱吉の表情が一気に険しくなった。綱吉はグイッと髑髏の腕を掴み、手のひらを自分の胸に当てさせた。トクン、トクン…と綱吉の鼓動が聞こえる。
意図が分からず綱吉の顔色を伺うと、琥珀色の瞳が真直ぐに自分を見つめていた。
「…俺は、ここにいる」
そんなの一目瞭然だ。
「でも骸は……ここには居ないじゃないか…」
―――パンッ、と鋭い音が空を舞う。
手が、頬が、じんじん痛い…。
一瞬の出来事に綱吉も髑髏もなかなか脳がついてこなかった。
痺れる手のひらとぶたれた頬をさする綱吉を交互に見つめ、髑髏は反射的にぶってしまったことを謝ろうと口を開いた。
「恵まれているくせに…」
しかし紡いだ言葉は裏腹で、だが本心でもあった。
「――貴方はただ、守られてるだけじゃない!色んな人から愛されて育って、贅沢だわ!
居ないから何だと言うの。居ないだけで、骸さまは生きている。あの仄暗い闇の底で、骸さまは自らを犠牲にして仲間を守っているというのに――」
苛々する。
どうして骸さまはこんな男に執着するんだろう。こんな、守って貰うだけのお姫様のような男を、どうして私たちが守らなければならないの…。
私たちが望むことは骸さまの役に立つこと。骸さまに幸せになって欲しいこと。
これがすべて…。
「俺なら、君のそばにずっと居てあげられる…」
その口は、まだそんな戯言を紡ぐのね。――もう、疲れたわ。
髑髏は綱吉の瞳を見つめ、ゆっくり口を開いた。
これが、最後のチャンス。
「………私はたった今、ボスのこと嫌いになったわ」
「それでも俺は君が好きだよ」
――ああ、もう駄目ね。
脳裏に浮かぶは彼と初めて出会った夢の中。彼と同化し過ごして来た日々。こうなってしまった以上、彼の幸せを願うのならこれは必然なのかもしれない。
髑髏は鞄に手を忍ばせ取り出したそれを自らのこめかみに当てた。
手が震える。死への恐怖では無く、拳銃の重さに。
「髑髏…何を…!?」
私の望みは骸さまの役に立つこと。骸さまに幸せになって欲しいこと。
骸さまの幸せが、この男の中にあるのだとしたら…
「邪魔者は消えるわ」
end
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