稜にもらったお菓子を片手に、部屋への廊下をぺたぺたと歩く陸。顔は無表情では在るが、心なしか足取りは軽く。本人的には鼻歌でも歌いそうなほどのハイテンションだったりする。

休日のため普段着でうろうろする陸に、たまたま廊下に居合わせた生徒達は釘付けである。
普段はネクタイがしっかりと締められ、垣間見ることすらできない首元が無防備に晒されているのだ。艶やかな黒髪の下にのびる、白い首筋。ちらりとのぞく鎖骨にチラリズムの威力を実感する生徒達。

ふわりと、廊下から春の麗らかな風が吹き込む。風をうけて、陸は青色の瞳を細めて窓の外に視線をやる。晴れ渡る青空、小鳥のさえずりに耳を傾ける陸の姿を、うっとりと廊下の影から見つめる親衛隊たち。

前までは制服姿のしゃんと背筋を伸ばした陸しか見られなかったのが、最近では休日の無防備な姿をよく目撃するようになったのだ。おいそれと近付けないような、神聖ともいえる雰囲気を漂わせるだけの人物ではなかった。無防備なほどのいとけない姿を晒して、ほんのりと青色の瞳をゆるませる。時折覗かせるようになった溶けそうなほどに甘い微笑に、親衛隊の数は驚くほど増えていた。
それが、今年入学してきた陸の弟である稜に会うためだとわかっている。それだけではなく、陸が休日によく会っている人物がいることもわかっている。それでも、最近の陸の人間を感じさせる美しさに入隊を希望するものは後をたたなかった。

「陸」

凛とした声が廊下に響く。その声の持ち主に気付いた親衛隊の生徒達がざわめくが、その空気もなんのその。凛とした声に相応しく、しゃんと伸びた背筋にぱきりとした足取り。さらさらと揺れる黒髪の下で、きりりとした黒い瞳が陸を見据える。

文化委員長、木野尊。その人の呼びかけに、窓の外をぼんやりと眺めていた陸がぴくりと反応する。ないはずの犬耳がピンと立ち上がったのを見えた気がした。きっと尻尾もついていたならぶんぶんと左右に振られていただろう、無表情ながらに纏う空気を明るくした陸が、尊に駆け寄る。青色の瞳が華やいだのをみて、尊が微笑んだ。

「今日、しごと、って」

首を傾けて、陸が尊を見上げる。髪が流れて晒される首筋に目をやって、素早く周囲を見渡す。注目するまわりの生徒達から隠すように陸を抱き寄せた尊に、腕の中で目を瞬かせる陸。生徒達の視線に気付いていないのだろう、どうしたの?とでもいう風に頭上に疑問符を浮かべる陸に尊は苦笑をこぼした。

「はやく終わったんだ。陸を探しに行こうと思っていたから、ちょうど良かった」
「ん、すれちがい、ならなくてよか、った」

すり、と尊の肩に額をこすりつけて、陸があ、と声を漏らす。

「ん? どうした、陸」

もぞもぞと尊との間に隙間をあけて、持っていた袋を見せる。茶と青の縞模様のそれに、尊が首を傾ける。
そんな尊を尻目に、ごそごその袋の口をあける陸。口があいた瞬間にただよってきた鼻を擽る甘い香りにああ、と合点がいった尊。

「クッキーか」
「ん、」

こくん、と陸が頷く。袋の中身はわかった。だけど、それがどうしたのだろう?お菓子を食べたいなら部屋に戻れば良いし、わざわざ廊下で袋を開ける必要もないだろうに。首をかしげたままの尊の目の前に、す、と陸の指がさしだされる。正確に言えば、陸の指に摘まれたクッキーが。

「みこ、せんぱい。」

目の前のクッキーのかおりのように、甘い声が尊を呼ぶ。
ぱちりと目を瞬かせた尊の目の前で、滅多に緩むことのない陸の表情が、ふわりとほころんだ。青い瞳がとろりと輝く。ん、と薄紅に色づく陸の唇が言葉を紡ぐ。

「あー、ん?」


うららかな春の午後、あまい空気に満ちた廊下にて、バカップルが一組。

(親衛隊の生徒たちが悔しげにハンカチを噛み締めていたとか、なんとか)


……………………
雪村文花さま、リクエストありがとうございました!
リクエストに沿えているかどうか不安なのですが・・・管理人は執筆楽しかったです^^尊からのあーんは考えやすいのですが、陸からのは新鮮でした^^素敵なリクエストありがとうございました!

110331/ミケ


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -