ぐらり、傾いだ体を支えきれない両足。場所は階段の一番上。落ちるな、そう思ってゆっくり目を閉じた。痛いのはイヤだけれども、今は頭がぼんやりして対処方が思いつかない。受身ってどうやって取るんだっけ? ああ、頭の中がグラグラする。

浮遊感に身を任せて。でも。


「っ、危ない!」


階段に反響する声。己の体を支える体温に、閉じていた目を開く。体に巻きつく逞しい両腕。首をめぐらせれば、心配そうに歪んだ顔が見えた。


「・・・、みこ、と・・・せんぱい?」

せんぱいのさらさらの黒髪が、首筋を撫でてくすぐったい。落ちなくて良かった。なんて思って、でも眉間に皺を寄せるせんぱいに首を傾げる。・・・おこってる?

「あ、の・・・、えと・・・ありがとう、ござい、ま・・・す」
「・・・」

ぎゅう、抱きしめられた。

無言のまま、腕の中で俺の体を反転させて向かい合わせに、尊先輩が抱きしめてくる。俺の首筋に顔を埋めるようにして、温かくて力強い腕で抱きしめる先輩。

先輩の体温を感じて、心臓の音を肌で聞いて。


「・・・陸?、どうした、震えて・・」
「・・・っ」


体が、震えた。階段から落ちかけたことをやっと自覚する。いま尊先輩の体温に包まれているこの体は、もしかしたら床に叩きつけられていたかもしれない。事実、尊先輩に助けられたから良かったものの、俺は落ちる瞬間衝撃を和らげる事すら放棄していた。

こわい?こわかった?・・・そういうわけ、じゃないけれど。


「、だいじょうぶ、陸はちゃんとここにいる。オレの体温がわかるだろう?」
「みこ、せんぱ」
「落ち着け。・・・階段から落ちかけたんだ、こわくなってもいい。」
「・・・、こわ、い・・・?」

こわい?


熱に浮かされたように頭の中がふわふわする。・・・実際、最近の仕事の多さのせいでろくに睡眠も食事もとれてないのだから、体調不良になってないほうがおかしいのだけれど。

尊先輩が俺の首筋から顔を上げて、真っ直ぐに視線を向けてくる。

「最近おまえは・・・無理をしすぎているように見える。」
「・・・?」
「・・・もっと」

くしゃり、歪んだ表情。

「オレを、」





頼ってくれ・・・




まるで懇願されるように、呟かれた声にきりりと胸が痛んだ。

「みこと、せんぱい・・・」

頼っていいの?・・・頼って構わないのなら、俺は。


「こわかった・・・です。・・・あと、」
「あと?」
「・・・なんか、ねつっぽく、て・・・。保健室、・・・いきたい、です」

つれてってください、そう言って服の裾をつかんだから、尊先輩はひどく嬉しそうに笑った。


うん。


尊先輩のこういう顔みれるなら・・・、・・・もっと頼りたい、かも・・・。



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花鈴さま、リクエストありがとうございました!
一万打に引き続きご参加くださりありがとうございました^^なんか雰囲気小説になってしまいましたorz執筆はひじょうに楽しかったですv

100510/ミケ


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