05
夢じゃありませんように



まあそんなこんなで、呼び出されるたびにあの手この手で相手を自滅させてを繰り返していた俺に、絡む連中はいなくなった。変わりに親衛隊というものが結成されて、俺を様付けで呼ぶ生徒が周りを囲うようになった。

退屈で仕方ない。そんなある日、俺は西条先輩の姿を始めてみることになる。

まあ食堂で、遠くから見ただけだけど。俺が彼のことを好きなのは、単純に顔が好みだったから。それだけ。好きになる切欠なんて、大概そういうものでしょ? 綺麗な言葉でいうと、一目惚れってこと。

周りからの媚びた悲鳴なんて意識外ですよ、といった風の彼の態度にひかれた。前だけを見据える黒色の瞳にうつってみたいと思った。彼が普通の生徒だったなら、名前を知ることすら難しかっただろう。けれど名前なんて周りの生徒達が煩いほど叫んでる。親衛隊の一人に彼について問えば、色々な情報を聞くことができた。


それから西条先輩にどうやって近付こうか、なんて考えてたある日、久しぶりに呼び出しを食らった。それは入学してからよくされていた嫉妬からくるそれではなく、下卑た意味合いのもので。

親衛隊持ちといえど、入学したての新入生である俺が同じ親衛隊持ちの先輩に逆らえるわけが無かった。学校の内情をわかりかけてきた時期だったというのもあるし、相手が悪かったのもある。

「跪いて」

初っ端から言う言葉がそれか、と呆れた。
人を食ったような笑みを浮かべるその生徒は、己と似たような性質らしい。小賢しくて悪知恵が働くってこと。

小首をかしげる小奇麗な顔をしたその人は、昼時の廊下でそんな命令の言葉を吐き出した。ぎょっとする生徒と、下卑た色に表情を変える生徒。見事に別れた生徒達の顔色に、溜息を噛み殺す。こちらも首をかしげて、けらりと笑みを浮かべた。

「そういう趣味ですか? マニアックですね、センパイ」

ここで大概向こうは怒るものだけど、やっぱり彼は俺とそっくりらしい。

「そういう趣味ではないけど、君が跪く姿にはすごく興味があるな」
「…そうですか。趣味悪いですね」
「そうかもね。まあ私の性癖なんてどうでもいいから、早く跪いてよ」

にこりと、完璧な笑顔。それを見て、けらりと浮かべていた笑みを消しす。足を曲げて、廊下に膝をつきかけたところで、遠くからたくさんの悲鳴が響いた。何事? その場にいた全員が意識を浚われる。かくいう俺も中途半端な姿勢のまま、意識を向こうに投げる。が、突然腕を引っ張られた。

「早くしろ。」
「え…?」

見上げれば、俺の腕を掴む西条先輩。間近に綺麗な顔があって焦る。え、ホントに何事? 混乱する俺をよそに、ぐいと腕を引っ張り上げて俺を立たせる先輩。

その頃には周りも西条先輩に気付き始めて、俺に命令を下した先輩も薄っすら頬を染めて西条先輩を目つめていた。周囲の視線に気付いた彼は、溜息を吐き出すと小さく愚痴る。

「チ、…気付かれないうちにと思ったんだけどな…」

え? 聞き返す前に、まあいいかと言葉を吐き出した先輩にきょとんを目を瞬く。瞬いてる間に、ぽんと頭の上に手をのせられた。

「こういう妙な真似はやめろ。二年生の品位に関わる。」

庇うような言葉。まあきゅんとくるよね。だって有名な相手が、すこし騒がれてるだけの一年生を気にかけてくれたんだよ? 胸が高鳴らない方がおかしい。

凛然とした黒色の眼差しを見上げて、どきどきと鳴る心臓を押さえる。

まあ彼は俺のことなんて全く意識外で、ただ言葉通り二年生が一年生にそういう無理強いを往来ですると思われては困るから、という理由からの行動だったらしいけど。

ぼんやりと彼に見惚れていた俺は、いつのまにか誰もいなくなった周囲に気付かなかった。授業が始まっても立ち尽くしたままの俺は、きっと間抜けにうつっただろうな。あ、先輩にお礼言ってない。そんなことを考えながら、その足で西条先輩の親衛隊に入った。まあ、「想いを告げることを禁じる」なんて決まり事があったけれど、それ以上に「彼を支える」という言葉にグラリときた。どうやら俺は一途な性質らしい。

彼にとっては記憶にも残らない些細なものだったろうけど、俺の記憶にはしっかり刻み込まれたのだ。


それから一年、数ある親衛隊の中でも過激派と謳われる西条先輩の親衛隊は、確かに言葉通りとっても過激だった。まあ、他の過激派といわれてるところと違って分別のあるものだったけれど。

彼のストーカーを撃退したり、私物を盗むものに忠告したり。西条先輩が周りからの求心力がすばらしいため、そういった行為を働く者は後を絶えない。忠告や時には制裁を繰り返した結果の"過激派"。西条先輩はそれを理解してるらしく、親衛隊持ちによくある親衛隊嫌いの傾向は余り見られなかった。たとえば、親衛隊と知っただけで顔を歪めるくせに親衛隊を顎で使うとか、そういう傾向ね。まあ彼自体が人の好き嫌いが激しいため、関わることは無いけれど。

だからこそ、いまの状況に頭が追いつかない。……本当に夢じゃないだろうな。


2010/10/24 2010/12/03修正


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