04
狐がわらう



一年前に、思いを馳せる。今の状態なんて想像も出来なかったあの頃。


「言ってる意味がわかんないなあ。俺になにしたいわけ?」

殆どが中等部からの持ち上がりで構成されるこの学校は、辺境の地にこっそりと建つ全寮制男子校なだけあって随分と不可思議な風潮があった。つまり、同性愛の横行する場所なのだ。まあ年頃の青少年がこんなところに詰め込まれれば、そうなるのも当たり前だろうけど。ちなみに俺は男女共に恋愛対象、だよ。

体育館裏というある意味ベタな場所で、壁に背をつけた俺はゆるりと笑みを浮かべる。

数年ぶりになるという学外からの入学者ということで、一年生の間で注目を浴びていたらしい俺は、まあそれなりの容姿をしていた為案の定目をつけられたのだ。恋情や思慕からくるものなら楽だったろうに、それは敵対の意を持っていたからもう面倒この上ない。

にやにやと下卑た表情を浮かべて俺を取り囲む数人のガタイのいい生徒。その後方で腕を組み、勝ち誇った表情を浮かべる美人系な顔立ちの生徒。

今とそう変わらない体格だった当時の俺は、今よりも随分と意地の悪い性格をしていたように思う。

小首をかしげてけらりとした笑みを浮かべる。過虐心でも煽られるのか、明らかに興奮の色を増した生徒達に内心うんざりする。こうして絡まれるのはもう片手では数え切れないくらいあるのだ。まあおかげで、有効な対処法を見つけたわけだけども。


美人ではあるけれど、華のない生徒。どこか地味な印象を拭えない彼は、揺るがない俺の態度に怒りの形相をみせる。男の嫉妬ほど醜いものは無いよね。

「なにをしたいか? 粋がってる君に忠告しにきただけだよ。」
「忠告? なにを?」

反対側に首をたおす。なにもわかってません、というような顔でわらう。それが癪に障ったのか、かっと顔を赤らめる生徒。

「ちょっと顔が綺麗だからって、」

きっと続く言葉は、"いい気になるな"ってところでしょ。いい加減耳にたこが出来る。陳腐な言葉しか吐けない彼らに、意外性って大事だよね、なんて考えながら、彼の喚きに言葉を重ねる。

「ちょっと? 明らかに俺の方が美人デショ。俺が"ちょっと"美人なら、あんたは普通顔ってことだよね」

思いがけない反論に呆気にとられた生徒は、しかし意味を理解したのかさらに顔を赤くさせる。怒りに任せて口を開く彼をよそに、意識してにこりと邪気の無い笑みを浮かべた。

「ねえ、俺の方が綺麗でしょ?」

ちょうど目の前にいた生徒の腕に手を伸ばして、つ、と指先で撫でる。そう思うよね? なんて笑顔で尋ねれば、頬を紅潮させてこくこくと頷く生徒。外では女の子にしか効かなかった武器も、ここでは同性相手にも十分武器足りえることに気付いたのは、何度目の呼び出しからだったか。

「ほら、俺の方が美人だって。残念でした」

そう言ってみせれば、顔を赤くさせたままの地味系美人さんが俺の周りの男達に向かって喚きだす。

あいつの方が綺麗だっていうの僕よりも美人だって言うのふざけないでふざけないでふざけるな!

そうそう、勝手に自滅してよ。けらけらとした笑い声が抑えきれない。ヒステリックに首を振りながら叫ぶ彼に、明らかにドン引いた様子の生徒達。あ、そろそろかな。

なんのためにお前らを呼んだと思ってるの本当ならお前らに声をかけることも嫌なのに僕に声をかけられて有難くおもいなよねこんな事でもなきゃ誰が誰がだれがお前らなんかに声をかけるもんかこの

「木偶の坊!」

あーあ、言っちゃった。目の前の生徒が、先ほどとは違った意味合いで顔を赤らめて体の向きを俺から彼に変える。他の生徒達もそれに倣って、怒りに染めた顔のまま彼の元へずんずんと向かっていった。

あ、と唇を震わせて顔を青ざめさせる生徒。自業自得、見事なまでに自滅してくれてホントに……つまんない。
俺を襲わせるために集めた生徒達に、逆に襲われそうになる彼。とっくに興味をなくしていたので、響く悲鳴をBGMに踵を返す。
欠伸を噛み殺して、その場を後にした。
ああ、彼はどうにか逃げ切ったらしいよ、陸上部のエースなんだって。足の速さは天下一品ってことだね。あれ以来地味な印象どおりに目立たないよう生活してるみたいだけど。


…今考えても俺って最低だね。

ぼんやりと溜息を零しながら、西条先輩のことを好きになった日のことに頭を切り替える。


2010/10/24


prev next

MAIN-TOP

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -