03
つまりはつまり



なにこれお悩み相談コーナー? 色気たっぷりに"ナンパ"と言った彼はどこへやら、少なくとも彼にとっては初対面なはずの俺に、情けなく落ち込んだ顔を晒して切々と心の内を語りだした西条先輩。

転入生に差し伸べられた手を払ったら、今まで友人だと思ってた奴らに烈火の如く怒られた、と。

つまりそれって、要約するとさ。

「捨てられたんだ」

けらりと薄ら笑って言えば、悲しみに満ちていた西条先輩の顔が苦渋に満ちたそれに変わる。しかし怒りを感じただろうに、小さく溜息を吐いてそれを抑えた先輩に意外な気分になった。見知らぬ生徒から、「捨てられた」なんて揶揄うようなことを言われれば、怒鳴りはしないものの顔を顰めるくらいするだろうに。

「トモダチだと思ってた奴らはみんな友情よりも恋情をとりました、ってことですよね」

その人たちも友達がいがないけれど、先輩も人を見る目がないんじゃないですか?

先輩の返事を聞く前に、再び無遠慮にそう言った後けらけらと笑って見せれば、今度こそ怒りに顔を歪めた先輩。そうそう、怒ればいい。その"友人"とやらに言いたい事は山ほどあるだろうに、何も言わないで一人でいるなんて…そんな馬鹿みたいな選択をするというなら、その怒りの吐き口くらいにはなりたいと思うのだ。…思って、しまうのだ。なんて。内心とは裏腹にけらりと浮かべた表情は揺るがない。

笑う俺を歪めた顔で見つめる先輩。黒色の瞳が険呑に細められているのをみて、場違いながら綺麗だなと見つめ返す。彼を構成する全てが愛しくて仕方ない。

暫しの沈黙の後、色っぽく唇の厚い大きな口が開く。そこから吐き出されるのはどんな怒り事だろうか、不謹慎にも何故だかわくわくしている自分がいた。


「……お前の言うとおりだな、」



……あれ?
え、あれ? ちょっと、予想してた言葉と違うんだけど、あれ?

怒っていた表情は鳴りを潜め、弱々しい笑顔を浮かべて言う先輩。

ちょ、ええ、そこは怒るところだよね、なんで認めちゃうかな…! ずるい。ずるいずるい。

「我ながら情けない。」
「ま、まあでもそのトモダチとかいう奴らのほうが情けないっていうか」

なぐさめてしまうじゃないか…!

「そうか…? いやでもあいつらを友としたのはオレなんだから、やっぱりお前の言うとおり見る目がなかったんだろうな」
「恋は人を変えるって言うじゃないですか。トモダチはみんな恋っていう化物に食べられました、とか思っとけばいいんですよ」
「化物、…ね」
「そうそう化物、…化物…」

どんどん予定からずれていってる。怒らせて怒鳴らせるなりして、内心のモヤモヤを吐き出してもらおうと画策していたのに、それが崩れていく。まあ最初から、この人が自分の考えている通りに動くなんて思ってなかったのだけど。それでも予想外すぎる。どれだけ弱ってるの西条先輩。


「そういえば…先輩は、なんで図書室にいたんですか?」

話を変えるべく、疑問に思っていたことを告げる。基本的に一人でいることがすきで、室内に篭るよりは学内の森を散策することがすきな先輩が、室内の中の室内ともいえる図書室にいるなんて。去年も図書委員をしていたけれど、先輩が来るところなんて見たことが無い。本は読むようだけれど、その本は全て私物のようだったし。

小首をかしげて先輩をみれば、少し明るくなっていた顔が逆戻り、悲しそうにゆれる。あ、やばい失敗。

「ここなら、……誰も来ないと思ってな」

まあ、お前が来たけど。

囁くように紡がれた言葉。残念そうにしながらも、人が来たことを嬉しく思っているように見えるのは……俺の、自分勝手な妄想だろうか。
心のなかに横たわる、彼への想いがずんと存在感を強める。どこか柔らかい彼の表情に、叫びだしたくなるのを堪えた。堪えて、けらけらといつもの笑みを浮かべる。

「それは残念でしたね。図書室に図書委員が来るなんて、当たり前でしょ」
「図書委員? お前が、か?」
「なんですかその反応。」
「いや、…」

意外そうに上げられた眉。不自然に言葉を切った彼は、じろじろと俺を上から下まで眺める。

そうしていたら、不意に腕をとられた。

「…細い、」
「なっ、」
「しかも白い」「ちょっ」

手首を覆うてのひら。西条先輩の目の前に引き寄せられた俺の腕を、まじまじと観察する彼。自分の手と見比べて、何故だか感動したようにもみえる先輩に素っ頓狂な声がもれた。

「図書室に篭っているような性質には見えないが…この腕を見たら納得した。」
「それ、どういう意味ですか」

眉を顰める俺の頭を、腕から離した手でそのまま撫でる。意地悪そうな笑みを浮かべる先輩に見惚れた。

「飯をもっと食え、って意味だな」
「……」


じわり、腕にのこる体温に心臓が高鳴る。頭の上に置かれたままのてのひらが大きくて、何故だか感動した。先輩と喋って、軽口を言い合ってるなんて…夢みたいだ。

「…、そんなに細いですか? 先輩が太いだけでしょう」
「筋肉質なんだ。太くは無い、がお前が細いのは確かだ。」

けらけらと笑い声を上げる。失礼な人ですね、なんて言いながら目を細めて、先輩を見つめれば黒色の瞳と目が合った。

「お前、名前は?」


これがきっと、ひとつの切欠。


2010/10/24 2010/12/03修正


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