01
出会いと洒落込もうか



アシンメトリーにカットされた髪の毛を風に遊ばせて、ゆったりとした足取りで歩を進める生徒。

東雲 東と名乗るその男子生徒は、授業中にも関わらずゆったりとした、それでいて迷いのない足取りで図書室へと向かっていた。

色素が薄いのか、日に透けると金に見える髪の毛。色の白い肌。す、とした切れ長の瞳は、薄い瞳の色と相俟って爬虫類染みた軽薄さを漂わせる。少し高い鼻の下で笑みを刻む薄い唇と、整えられた細い眉が飄々とした印象を強めていた。美形と称するに足る容姿の彼は、それでも綺麗やら美しいやら可愛いやらの賞賛を素直に囁くことの出来ない軽さを持っているのだ。
掴みどころのない猫のように。けらけらと嗤って人を騙す狐のように、どこか妖しくみえる彼は長い足でひょいと階段を駆け上がっていく。

やがて着いた図書室の前で、ぐと背伸びをする。くありと小さく欠伸を漏らして、やっと図書室の扉に手をかけた。

音もなくすべらかに横にスライドした扉の隙間に身体を滑り込ませて、さっと後手に扉を閉める。

誰も居ないだろうと高をくくってお座成りに図書室内を見渡した、東の飄々と細められていた目が瞠られる。

図書室にだけ置いてある幅の広い机の上に、頭をだらりと乗せて眠る人物。漆黒の髪に、筋肉質な身体。

顔も確認していないが、東の一つ上、三年生の西条静だと一瞬にして理解した彼は、さっと踵を返す。東が所属しているのは、西条静の親衛隊なのだ。
一番の規律に「西条静に想いを伝えてはいけない」と掲げているのだから、こんなところで二人きりで居るのをもしも見られたら・・・。なんて事を考えているわけではない。

単純に、好きな人が居て話しかけない自信が無かったし、話しかけたとしても彼に応じられる自信も無かったのだ。わかってはいるが、話しかけてスルーされたら傷つくのはこちらなのだから、それならば最初から話しかけない方がいいに決まっている。


閉めたばかりの扉に手をかけて、力を入れたところで不意に背中に影がかかった。

扉に添えた手に、大きな手が重なる。


「帰るのか」

低い声が耳元で囁く。ぞわりと鳥肌がたって、たった一言なのに腰が砕けそうになった。

「用事を、思い出したので」

そう言うと扉に添えた手を覆うそれは退けられたが、その手は引っ込められることなくしっかりと東の肩を掴む。ぐ、と力を籠められているのは、振り返れという無言の命令なのだろう。


溜息を飲み込んで、ぐるりと反転した。

予想以上に近い距離に居た静に、静の瞳に目を奪われる。少しだけ息を呑んだ。それはあちらものようで。・・・まあ、己も並み以上の容姿をしていることは自覚しているから。何故驚かれるのだろう、なんて天然染みた行動はしないが。


髪と同色の、黒い瞳がこちらを見下ろしている。獣のように鋭いそれが、自分を・・・見ている。
瞳にうつる己が歪な笑みを浮かべているのを見て、なんだか泣きたくなってしまった。


2010/10/22 2010/12/03修正


prev next

MAIN-TOP

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -